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散歩道
【さんぽみち】


文化人が愛した散歩道

物を運び、人が移動するために使われる道は、ときには散歩道として利用されることもある。誰にでも自分の好きな道があり、その道を歩くことを楽しみにしている人も少なくない。同じ道でも、自然や町の様子は日々変化し、それを眺めながら歩くことは楽しいものである。文化人たちも散歩道を愛した。その一つに、京都の哲学の道がある。
南禅寺の北にある若王子神社前の若王子橋から、琵琶湖疏水に沿って銀閣寺西の銀閣寺橋までの約二kmが、「哲学の道」と呼ばれる散歩道だ。昭和初期の哲学者西田幾多郎が、思索にふけってよくこの道を散歩したことからこの名がある。春は桜、初夏は目に染み入る木々の緑、秋の紅葉と四季折々に変化する自然は素晴らしく、この道が気に入っていたのもうなずける。最近はハイセンスな店も増え、京都で最も人気のある散歩道として訪れる人も多い。「日本の道一〇〇選」にも選定されている。
瀬戸内海に面する美しい港町、広島県の尾道市は志賀直哉や林芙美子など多くの文学者たちに愛されてきた歴史の町である。瀬戸内海を眼下におさめる千光寺公園には、尾道を愛した文化人らの足跡が碑となり、それらの文学碑を結ぶ小径が「文学のこみち」として観光客たちから親しまれている。
播磨の小京都として、また、揖保そうめんと淡口醤油の里として知られる兵庫県龍野市は、「赤とんぼ」の作詞者三木露風をはじめ、多くの文人墨客から愛された町である。龍野公園には文学の小径や哲学の小径が散歩道として整備されている。
国木田独歩は武蔵野を愛し、島崎藤村は木曽路を、北原白秋は水郷柳川をというように、文学者たちは町を愛し、散歩道を愛してきたのである。




日本実業出版社
「道と路がわかる事典」
JLogosID : 5060072