花さそふ 比良(ひら)の山風 吹きにけり 漕(こ)ぎ行(ゆ)く舟の 跡見ゆるまで
【はなさそふひらのやまかぜ】

〔〔和歌〕〕〈新古今・春下・一二八・宮内卿(くないきゃう)〉
[訳]「(桜の)花を誘って散らす比良の山風が吹いたことです。漕ぎ渡って行く舟の航跡が(湖上に散った花のおかげで)見えるほどに」
<参考>宮内卿(?~一二〇四?)は鎌倉時代初期に活躍した歌人で、後鳥羽(ごとば)院に仕えた女房。「比良の山」は琵琶(びわ)湖西側の山地で、陰暦二月末に山上から湖に強風が吹く。「湖上花」題で詠まれた歌。本歌「◎世の中を何にたとへむ朝ぼらけこぎ行(ゆ)く舟の跡の白波」〈拾遺・哀傷・一三二七・沙弥満誓(さみまんぜい)〉[訳]「◎この世の中をいったい何にたとえようか。明け方漕ぎ渡って行く舟の跡の白波と言うべきか(それほどはかないものだ)」。

![]() | 東京書籍 「全訳古語辞典」 JLogosID : 5071798 |