一つ
【ひと-つ】

<一>[名]<二>[副]
<一>
[1](数の)一。一個。また、一歳。
[例]「ただひとつ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし」〈枕草子・春はあけぼの〉
[訳]「(蛍がたくさんではなく)ただ一つか二つが、かすかに光って飛んでいくのも風情がある」
[2](二つ以上のものが)同一になること。同じ時。同じ場所。いっしょ。
[例]「母亡くなりにし姪(めひ)どもも、生まれしよりひとつにて、夜は左右に臥し起きするも」〈更級〉
[訳]「母親が亡くなってしまった姪たちも、生まれたときからいっしょで、夜は左右に並んで寝起きするのも」
[3](順序の)第一。一番目。
[例]「友とするにわろき者、七つあり。ひとつには、高くやん事なき人」〈徒然・一一七〉
[訳]「友人にするのによくない者には、七つ(の種類が)ある。第一には、身分が高くおそれ多い人」
[4]一方。一面。
[例]「わづかに二つの矢、師の前にてひとつをおろかにせんと思はんや」〈徒然・九二〉
[訳]「たった二本の矢、師匠を前にして(その)一方をいいかげんにしようと思うだろうか(いや、思わない)」
[5]単一。単独。唯一。そのものだけ。
[例]「◎月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつはもとの身にして」〈古今・恋五・七四七〉
[訳]⇒つきやあらぬ…〔〔和歌〕〕
[6]時刻の呼び方の一つ。一時(ひととき)(=約二時間)を四分した一番目の時刻。
[例]「女、人をしづめて、子(ね)ひとつばかりに、男のもとに来たりけり」〈伊勢・六九〉
[訳]「女は、人が寝しずまってから、子ひとつ(=午後十一時から十一時半ごろまで)ごろに、男の(寝ている)所にやって来た」
<二>
[1]〔下に打消の語を伴って〕少しも。まったく。
[例]「この文(ふみ)に書かれたりし、ひとつたがはず」〈更級〉
[訳]「この書類に書かれていたことは、少しも違っていないで」
[2]十分に。かなり。ずいぶん。
[例]「聟殿(むこどの)には、ひとつ成ると見えました」〈狂・二人袴〉
[訳]「婿殿は、かなり酒が飲めると見えました」
[3]少し。ちょっと。
[例]「矢ひとつ射かけて、平家へ子細(しさい)を申さん」〈平家・四・源氏揃〉
[訳]「矢を少し射て、平家へ詳細を知らせよう」

![]() | 東京書籍 「全訳古語辞典」 JLogosID : 5072588 |