隠れ蓑・隠れ笠
【かくれみの・かくれがさ】

平安時代には、隠れ蓑・隠れ笠の存在が人々に知られていた。『拾遺和歌集』雑賀・一一九二に、「忍びたる人のもとに遣はしける隠れ蓑隠れ笠をも得てしがな来たりと人に知られざるべく」という和歌がある。また、清少納言が中宮定子(ていし)のようすをのぞき見ようとしていたとき、身を隠していた屏風(びょうぶ)がはずされてしまった。その時の気持ちは、「隠れ蓑取られたる心地」だったと、『枕草子』の「淑景舎」の段には記されている。
やがて隠れ蓑・隠れ笠は鬼の持ち物として定着する。「鬼」の語源は「隠(おん)」だと考えられており、鬼が人の目に見えない存在とされたことと関連があるとされている。
狂言『節分』は、節分の夜、蓬莱島(ほうらいじま)の鬼が来て女をくどく話だが、そこでの鬼は、「みどもは蓬莱島の隠れ蓑に隠れ笠を着てゐたるによって、人間の目には見えぬものであらう」と言っている。
『保元物語』には、鬼が島に渡った鎮西(ちんぜい)八郎源為朝(ためとも)に「汝らは鬼の子孫か」と尋ねられた島の住人が、「昔、まさしく鬼神なりし時は、隠れ蓑・隠れ笠…などいふ宝ありけり。…今は果報尽きて宝も失せ、形も人になりて他国へ行くこともかなはず」と答えたという話がある。
歴史学では、中世・近世の百姓一揆(いっき)が蓑笠姿で行われることが多かったことに着目している。日常の姿・形・標識を不明なものとする、まさに隠れ蓑としての呪術的(じゅじゅつてき)機能が期待されていたという説がある。あるいはこの世ならぬ者に変身すること、いわば死出の旅に立つ、死者の旅装束として意識されたとする考え方が提出されている。

![]() | 東京書籍 「全訳古語辞典」 JLogosID : 5113469 |