豆酘郷
【つつごう】

旧国名:対馬

(近世)江戸期～明治５年の郷名。対馬国下県(しもあがた)郡のうち。対馬藩領。元禄12年，中世の対馬国に特有な変則的郡名（八郡）を古制の郷に復したもので，中世の酘豆(つつ)郡の郡域をそのまま郷域とする。元禄12年８月３日「八郡を二郡八郷に改む」（郡方日記／宗家文書）とある。対馬八郷の１つ。寛永15年「毎日記」や「寛文検地帳」でも酘豆と見えるが，元禄12年郷村帳（県史藩政編）や「元禄郷帳」「津島紀事」「天保郷帳」などでは豆酘と記される。郡を古代の郷に復したのと同時に，中世の酘豆を「和名抄」の豆酘に戻したのであろうか。元禄12年郷村帳（県史藩政編）によれば，所属の村は豆酘村・内院村・瀬村の３か村。「津島紀事」でも上記と同様に３か村とあり，また「東北至于与良郷界，南至于海岸，西北至于佐須郷界，在州南，而与肥前北海相対，九州往来便也」とある。なお，内院村は与良郷にも同名村があるため当郷の内院村は豆酘内院村または西内院村とも呼ばれ，同様に瀬村も佐須郷に同名村があるため豆酘瀬村または南瀬村とも称した。「新検上畠廻し」（寛文検地）による新間高は，御公領２間余・侍間13間余・給人間13間余・郡地16間余・百姓地５間余・寺領４間余・社領５間余の合計60間余（県史藩政編）。元禄12年郷村帳（同前）によると，田・畑・木庭の合計高は1,231石余，物成307石余，戸数179・人数679，給人20・公役人59・肝入５・猟師23，牛48・馬101，船14，寺５・社10とある。元禄年間の給人・足軽数は給人17・足軽０（猪鹿追諸覚書／県史藩政編）。宝永年間頃の20歳以上60歳以下の人数154，うち給人16・足軽１・猟師23・新猟師45，辺境防備や猪狩のために配分される鉄砲の予定数85（鉄砲格式僉議／同前）。元文５年の公役銀高１貫608匁８分（八郷公役銀高之内十ケ年之間四分一上納被差延候始終之記録／同前）。同年の孝行芋（薩摩芋）生産高1,224俵（県史藩政編）。嘉永３年の給人数は旧家（義智以前の判物をもつ者）10・中家（貞享４年御判物を先規の如くもらった者）６・新家（貞享５年以降の家柄）11・馬廻格11・のし目御免１・平給人14（同前）。文久元年の惣出来高御年貢并知行公役銀人数家数孝々芋出来高牛馬数調帳によれば，籾麦1,666石余（うち種用151石余・肝入領３石余），物成377石余（うち上納136石余・神祭用３石余），給人足軽領は家中知行102石余・給人知行87石余・寺社領44石余・草使４石余，公役銀２貫750匁，家数208（うち寺５），人高（人数）1,165（男509・女506・10歳以下150），孝行芋4,143俵，牛数206・馬数415（県史藩政編）。明治４年厳原(いずはら)県，伊万里県，同５年佐賀県を経て，長崎県に所属。同年区名施行にともない郷名は廃止された。郷域は，現在の厳原町豆酘・豆酘内院・豆酘瀬にあたる。

KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7221708