与良郷
【よらごう】

旧国名:対馬

(近世)江戸期～明治５年の郷名。対馬国下県(しもあがた)郡のうち。対馬藩領。元禄12年，中世の対馬国に特有な変則的郡名（八郡）を古制の郷に復したもので，中世の与良郡の郡域をそのまま郷域とする。元禄12年８月３日「八郡を二郡八郷に改む」（郡方日記／宗家文書）とある。対馬八郷の１つ。元禄12年郷村帳（県史藩政編）によれば，所属の村は雞知(けち)村・洲藻村・箕形村・吹崎村・賀志村・尾崎村・昼浦村・島山村・大山村・犬吠村・小船越村・鴨居瀬村・芦浦村・賀谷村・横浦村・濃部村・大船越村・久須保村・緒方村・竹敷村・黒瀬村・根緒村・小浦村・南室村・久田村・尾浦村・安神村・久和村・内院村・内山村の30か村。「津島紀事」では本村30・枝村４の合計34か村とあるが，その村名は上記と同じく30か村しか記載していない。当郷の中心である府中（与良）が城下町として町奉行支配のため郷内には数えられていない。当郷は南北に長いので，府中より北部を上与良と称し，南部を下与良という通称があった。明治初年府中の町名が廃止され，新町名を定めるにあたり，与良の古名に復する意見もあったが，厳原(いずはら)に決定されたという。「新検上畠廻し」（寛文検地）による新間高は，御公領21間余・侍間76間余・給人間39間余・郡地22間余・百姓地36間余・寺領５間余・社領14間余の合計217間余（県史藩政編）。元禄12年郷村帳（同前）によれば，田・畑・木庭高の合計3,534石余，物成883石余，戸数682・人数3,473（10歳以上），給人55・公役人370・肝入33・猟師87，牛219・馬301，船223，寺29・社23，在家は雞知・高浜の２か所。元禄年間の給人・足軽数は給人56・足軽９（猪鹿追諸覚書／県史藩政編）。宝永年間頃の20歳以上60歳以下の人数893，うち給人58・足軽13・猟師88・新猟師346，辺境防備や猪狩のために配分される鉄砲の予定数505（鉄砲格式僉議／同前）。元文５年の公役銀高３貫536匁７分（八郷公役銀高之内十ケ年之間四分一上納被差延候始終之記録／同前）。同年の孝行芋（薩摩芋）生産高2,692俵（県史藩政編）。嘉永３年の給人数は旧家（義智以前の判物をもつ者）41・中家（貞享４年御判物を先規の如くもらった者）15・新家（貞享５年以降の家柄）25・馬廻格27・のし目御免６・平給人48（同前）。文久元年の総出来高御年貢并知行公役銀人数家数孝々芋出来高牛馬数調帳によれば，籾麦4,857石余（うち種用441石余・肝入領19石余），物成1,099石余（うち上納443石余・神祭用20石余），給人足軽領は家中知行240石余・家中坪付前26石余・給人足軽知行273石余・寺社領91石余・亀谷坪付前３石余，公役銀８貫515匁，家数800（うち寺31），人高（人数）4,197（男1,786・女1,756・10歳以下655），孝行芋２万2,916俵，牛数527・馬数535（県史藩政編）。明治４年厳原県，伊万里県，同５年佐賀県を経て，長崎県に所属。同年区名施行にともない郷名は廃止された。郷域は，旧横浦村が現在の豊玉町に属し，南室村・小浦村・曲村・久田村・尾浦村・安神村・久和村・内山村・与良内院村が現在の厳原町の一部をなし，ほかは現在の美津島町の一部にあたる。

KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7223341