治療者と患者の性

男性治療者は男性患者の競争心やライバル視を引き起こしやすく,また女性患者の性愛(エロス)的反応を引き起こしやすい.女性治療者はその逆である.いったん競争相手とみるが,治療者は治療場面では患者よりも優位に立っている.その優位関係に従順に従う患者は,治療者により多くの権威・専門知識・人間性・社会でのステイタスを求める.自分の主治医が一番いい車で通勤して,いいスーツを着ていて,看護婦にも尊敬されていて,と求めるタイプである.逆に,優位であるはずの治療者に劣位を演じてもらうことで喜ぶ患者がいる.「‥‥先生は俺には一目置いている」「‥‥先生に是非にと頼まれて,仕方ないな」など.演じられた劣位であることを感じられない鈍感さがある.女性患者からのエロス反応は,個人精神療法の範囲では維持しやすい.外来通院の初期に通院維持の主要な動機になることもある.集団精神療法場面では二者関係ばかりではなく三者関係になり,治療者独占の空想が壊される.その意味では,個人面接場面よりも集団精神療法場面が現実度が高い.個人場面から集団場面に移行するタイミングには工夫が必要である.

![]() | 丸善 「こころの辞典」 JLogosID : 12020324 |