治療同盟

therapeutic alliance
患者の心の中の健康な自我部分と,治療者の治療者的自我との同盟.例えば患者が妄想状態にあり,「電話が盗聴されている」と訴えているとき,患者の心は100%妄想に支配されているかといえば,そうではない.わずかでも健康な自我の働きが残っていて,「重要人物でもない自分がどうして盗聴などされるのだろう」「これから一体どうなるのだろう,周囲の理解は得られないし,かといって自分は盗聴されているとしか考えられないし」とか思っている.そのときは病的部分に圧倒されていても,時間がたてば,健康部分の割合が拡大したりする.この様子を極端に提示したのが台うてなのチャンネル理論である.妄想チャンネルと健康チャンネルが,まるでテレビ画面が切り替わるように交代する.病的部分に圧倒されているときや妄想チャンネルになっているときは健常部分への働きかけは無意味なのだろうかといえば,そんなことはない.有効であるから,健常部分と同盟を結べるよう働きかけ続けるのである.働きかけの言葉は,健常部分が思うであろうはずの言葉をかけてやるのがよい.「とにかくこんなに心配なことが起こったのでは不安で夜も眠れないし食欲もなくなりますよね」「本当に困りましたね,家族にわかってもらえないのが二重に辛い」「でも,家族としては理解できないのもまた当然ですね」など.

![]() | 丸善 「こころの辞典」 JLogosID : 12020327 |