治療薬による精神病

薬物依存を形成するタイプのものと,有害副作用によるものとに大別される.症状としてはうつ,意識障害,幻覚妄想が出やすいが,使用量・期間・原疾患によって異なるし,大部分では複合した症状が出る.あえて分類すると次のようになる:うつがみられるのは,ドーパ(抗パーキンソン剤),レセルピン(血圧降下剤),メチルドーパ(血圧降下剤),プロプラノロール(βブロッカー),ヒドララジン(血圧降下剤),グアネチジン(血圧降下剤),ステロイド(副腎皮質ホルモン),経口避妊薬,サイクロセリン(抗結核剤),INH(抗結核剤).意識障害になるのは,ジギタリス(強心剤),アンタブース(抗酒剤).幻覚妄想が起こるのは,ペンタゾシン(鎮痛剤),トリヘキシフェニジール(抗コリン剤),アトロピン(抗コリン剤),スコポラミン(抗コリン剤),アマンタジン(抗パーキンソン剤),エフェドリン(気管支喘息治療剤).降圧剤がうつ状態を引き起こすことを例にとると,次のようなさまざまな場合がある.①薬自体の有害副作用.例えばレセルピンはカテコールアミンによる神経伝達を阻害することによりうつを引き起こす.②血圧が低下したことによるうつ状態または攻撃性低下の可能性がある.攻撃的だった人が急に落ち着くとコントラスト効果で元気がないようにみえる.③血圧の下げすぎで脳梗塞が発生し,その結果としてうつ状態が起きていることもある.④逆に,服薬していても高血圧が存続し高血圧脳症の症状として意識障害があり,それがうつ状態とみえることもある.また全身性エリトマトーデス(SLE:自己免疫疾患のひとつ)の場合の感情障害は原疾患によるものか,治療剤であるステロイド剤によるものか,両者の複合したものか,区別はむずかしい.治療薬による意識障害や幻覚妄想については,服用開始時期や用量から原因は比較的明瞭であるが,脳器質障害が併発しているときには原因が不明確になる.また,潜在していた内因性精神疾患や脳の脆弱性がこれら薬物や病気のストレスによって顕在化する場合もある.患者さんは自分の感覚から薬が原因ではないかと医者に尋ねる.半ば責めるような口調になり,また投薬した別の医師をともに非難することを求めるようでもある.精神症状について薬が原因ではないかと疑うことは必要であるし,実際に薬が原因のことは多いのであるが,しかし上記のような事情もあるので,慎重に考え,決めつけない方がよい.

![]() | 丸善 「こころの辞典」 JLogosID : 12020328 |