心身症とストレス

ストレスとは端的にいって「いやなこと」である.「いやなこと」がずっと続くと体をこわす.これが心身症である.とても原始的な場合で考えると,山で熊と突然出会ったときがストレス状況である.恐怖や不安が生じて,心理的にも身体的にも反応が起こる.人はストレスにさらされたときに,逃げだすか戦うかどちらかの反応をする.熊がとても強そうな場合には逃げる.戦って何とかなりそうな場合には戦う.語呂合わせで「闘争と逃走」という.逃げたり戦ったりするときには飲まず食わず眠らずで必死に動きまわる.血圧は上昇し,脈拍は速くなり,血液は筋肉に集中する.その影響で,脳の血流は少なくなり,物事を緻密に考えることはできなくなる.そのようにして緊急対応して,うまく熊から逃げきることができたら,そのあとでゆっくり食事をして眠ることになる.交感神経を働かせて闘争と逃走をして,副交感神経を働かせて休息する.交感神経と副交感神経のリズミカルな交代がある.人間の身体は本来,熊と出会うタイプの緊急ストレスに対処するように設計されている.熊から逃げればそれで危険はなくなるから,せいぜい1日くらい全力で走ればよいだけであった.ところが現代ではストレスは1日でなくなることはない.たいてい持続的である.仕事の困難も家庭の問題も,1日全力で何かしたからといって片付くものではない.本能は「逃げろ,さもなければ戦え」と命令しているのに,どちらもできず,ただ耐えて,ストレスが続く限り交感神経の緊張が続くのである.このようにして交感神経と副交感神経の本来のリズムが崩れて心身症が発生する.サラリーマン業は体に悪い.

![]() | 丸善 「こころの辞典」 JLogosID : 12020393 |