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構造的暴力


structural violence

 貧困、飢餓、抑圧、教育機会の喪失などは社会制度や国際システムの所産と考え、人間が本来持っているはずの寿命、可能性、活動領域などが、社会構造や南北格差の中で損なわれ制限されている状態を「構造が暴力をふるう」と比喩的にとらえた概念。ガルトゥングは、暴力とは「人間が潜在的に持つ可能性の実現の障害であり、取り除きうるにもかかわらず存続しているもの」と、概念の拡張を試みた。彼は通常の暴力を直接的暴力(direct violence)と呼び、それのない状態を消極的平和と規定した。これに対し、たとえば工業国で牛肉の消費が増え、途上国から大量の飼料を輸入するようになり、そのため途上国作付けを、自国民の消費用穀物から輸出用飼料に切り替える。その結果、子供たちの食糧が失われたという場合には、結果は直接的暴力と同じだが、因果関係は複雑で暴力行使の主体は特定できず、しかも他者から食物を奪ったはずの人々はその自覚を持たない。このように、社会関係非対称性を介して間接的に生命や人間の可能性を奪い去るような行為をガルトゥングは構造的暴力と呼び、制度や構造に内在した暴力の解消を積極的平和と定義して広範な論議を呼んだ。




朝日新聞社
「知恵蔵2009」
JLogosID : 14845923