ニュー・トレンド
●2005年から06年にかけて、「メディアの融合」という言葉が飛び交った。ライブドアがニッポン放送株を買い占めてフジテレビと攻防を繰り広げたと思ったら、楽天がTBSの筆頭株主に躍り出て経営統合を申し入れ、金融機関の仲介で提携交渉へ。そんな動きが相次いだからだが、これらはたまたま起きた現象ではない。その底流には、大きな時代の流れが渦巻いている。
●2つの変化を見落とせない。1つは、インターネットの急速な普及・浸透だ。ネットと既存メディアが融け合ったり補完し合ったりする。そんな動きがこれからも続き、新しいメディアの世界がつくられていくことになるだろう。もう1つの変化は、「最後の護送船団」とまで言われる日本のメディアのありようが根底から揺さぶられる時代を迎えたということだ。この自覚があるかないかが、生き残りへの最初の分岐点になるに違いない。
●ライブドアや楽天の直撃を受けた放送界は、時代への対応を急ぎ始めた。ネットに番組配信の場をつくったり、放送外収入の拡大に力を入れたり。新聞界も、ウェブ新聞などが台頭する時代に、ホームページの充実や読者との双方向性を確保する策を競い始めている。出版界も、電子書籍やオンデマンド出版への取り組みを強化している。聞こえてくるのは「結局は中身の信頼性や面白さ」という声だ。ネット業界の若いパワーに翻弄されたおかげで、既存メディアが目を覚まし原点に戻ったのだとすれば、未来は決して暗くないだろう。(隈元信一)
| 朝日新聞社 「知恵蔵2009」 JLogosID : 14846948 |