現象学

Ph(a)nomenologie(独)
フッサールは、諸学問に根拠を与える「基礎づけ」の学として現象学を構想した。真・善・美という意味や価値の本質、また広く精神や文化に関する問いは、自然科学を中心とした実証的な学問では扱えない。それゆえフッサールは、実証的な学問についても、意味や価値を扱う学問についても、それぞれの成立根拠と範囲を明確にしようとしたのである。現象学はあらゆる学問・認識の根拠を個々人の主観における妥当(確信)に求める。これは、客観的な世界の存在を当然視する素朴な見方を根本から変更するものだった。この態度変更を自覚的に行うことが「現象学的還元」と呼ばれる。客観的な世界がある、とする私たちの素朴な態度をいったん停止して、そのような妥当が生じる条件や理由を自分の意識の内側に探っていくのである。現象学的還元を通じて、フッサールが主に行ったのは、事物知覚の本質構造の記述であり、自然科学が土台とする客観的世界の妥当が成立する普遍的な(誰にも共通するような)条件を探ることであった。普遍的な構造や条件を取り出し記述することを現象学では「本質観取」という。この方法は、自分の経験を見つめ、そこから善、美、自由、正義といった人間的な諸価値の普遍的な意味あいを取り出す試みでもあり、その方法的意義は現在も失われていない。

![]() | 朝日新聞社 「知恵蔵2009」 JLogosID : 14849416 |