予防戦争

preventive war
9.11同時多発テロ以降論議されるようになった軍事戦略。従来型の先制攻撃論ではなく、危害を防止するために先制攻撃の前の段階で行う予防的行動である。従来の先制攻撃は今まさに攻撃しようとする意思を持った対象に適用されるものとされてきた。緊急状況下での国家によるこの種の軍事行動は、自衛権の先制的行使として一定程度認められているが、予防的軍事行動は現時点で直接的な危険はなくとも将来的な危険性を防ぐための軍事行動である。こうした議論が出てきた背景として核技術の流出を始めとした、大量破壊兵器のテロによる使用の危険性が高まったことが挙げられる。科学技術の発達に伴う兵器の小型化や高度な武器を個人が扱えるようになったことで、従来型の国家間の戦争以外にもテロ組織による軍事行動がクローズアップされてきたからであり、国家主権を前提としたウエストファリア体制の変動を告げている。ただしこの種の行動は、攻撃対象の危険性に関する情報を完全に入手できないという難しさをはらんでいる。もし各国がみなこの権利の行使を主張するなら、国際秩序の維持は不可能なものとなるだろう。最も重要な課題は脅威の定義や認定の基準、手続き方法、対抗手段を規定する仕組みを国際間で作り上げることといえる。

![]() | 朝日新聞社 「知恵蔵2009」 JLogosID : 14849446 |