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立つ・起つ・建つ・発つ
【た・つ】


<一>[自][タ四]<二>[他][タ四]<三>[他][タ下二]<一>た/ち/つ/つ/て/て<二>た/ち/つ/つ/て/て<三>て/て/つ/つる/つれ/てよ

《起立》足で立ち上がる。起立する。→<一>[自][1]
立たせる。→<三>[他][1]
《霧・雲・霞(かすみ)》現れる。立ちのぼる。→<一>[自][2]
生じさせる。立てる。→<三>[他][2]
《鳥・虫》飛び立つ。→<一>[自][3]
《出発》出発する。旅立つ。→<一>[自][4]
出発させる。つかわす。→<三>[他][4]
《幻》はっきり見える。→<一>[自][5]
《時季・時間》
時季が来る。時間が過ぎる。→<一>[自][6]
経過させる。→<三>[他][8]
《音・声・評判》
高く響く。評判になる。→<一>[自][7]
有名になる。評判を立たせる。→<二>[他][2]
(音・声などを)高く響かせる。→<三>[他][5]
(評判やうわさを)立てる。→<三>[他][6]
《乗り物》止まっている。→<一>[自][8]
(道具や乗り物を止めておく。→<三>[他][3]
《位階》位する。位に就く。→<一>[自][9]
就かせる。→<三>[他][9]
《刃物》切れる。さえる。→<一>[自]<10>
刺す。→<三>[他]<10>
《立腹》激昂(げっこう)する。けんかをする。→<一>[自]<11>
《設置》設ける。設置する。→<二>[他][1]
《願望》(誓いや願を)立てる。起こす。→<三>[他][7]
《門・戸》閉じる。→<三>[他]<11>
《専門》専門とする。本職とする。→<三>[他]<12>
《生活・名誉》保たせる。維持させる。→<三>[他]<13>
《建物》建てる。→<三>[他]<14>
《目・耳》働かせる。留める。→<三>[他]<15>
「たつ」は「たて(縦)」などと同根の語で、現れるや(上方に向かって)動く意。物が確実に存在するようすを表している。タ行四段の自動詞とタ行下二段の他動詞は頻繁に用いられるが、タ行四段の他動詞の用例はあまり多くない。
<一>


[1]足で立ち上がる。起立する。
[例]たちてみ、居てみ、見れど」〈伊勢・四〉
[訳]立ち上がって見たり、座って見たりして、見るけれど」
[2](霧・雲・霞などが)現れる。立ちのぼる。
[例]「◎東(ひむがし)の野(の)にかぎろひのたつ見えてかへり見すれば月傾(かたぶ)きぬ」〈万葉・一・四八〉
[訳]⇒ひむがしの…〔〔和歌〕〕
[3](鳥や虫などが)飛び立つ。
[例]「ただ一度にぱっとたちける羽音(はおと)の、大風いかづちなんどの様にきこえければ」〈平家・五・富士川〉
[訳]「(水鳥が)ただいっぺんに、ぱっと飛び立った羽の音が、大風か雷などのように聞こえたので」
[4]出発する。旅立つ。
[例]たち給ふあかつきは、夜深く出(い)で給ひて」〈源氏・明石〉
[訳]「(光源氏が都に)ご出発になる明け方は、夜の深いうちにお出かけになって」
[5](幻などが)はっきり見える。
[例]「忘らるる時しなければ面影にたつ」〈伊勢・四六〉
[訳]「お忘れするときもないので、(あなたの)面影がはっきり見える
[6]時季が来る。時間が過ぎる。
[例]「つれなくてたちぬ」〈源氏・紅葉賀〉
[訳]「(藤壺(ふじつぼ)の出産予定の陰暦十二月も、正月も)何事もなく時間が過ぎて」
[7](音や声が)高く響く。評判になる。名声があがる。
[例]「◎あだなりと名にこそたてれ桜花年にまれなる人も待ちけり」〈古今・春上・六二〉
[訳]「◎はかなく散りやすいと評判になっている桜の花よ。一年のうちでまれにやって来る人も待って(咲いて)いることだ」
[8](乗り物などが)止まっている。置いてとどまる。
[例]「雲林(うりん)院・知足(ちそく)院などのもとにたてる車ども、葵(あふひ)かづらどももうちなびきてみゆる」〈枕草子・祭のかへさ〉
[訳]「雲林院や知足院などのそばに止まっている牛車(ぎっしゃ)も、葵や桂も少ししおれて見える」
[9]位する。位に就く。
[例]「きさいの宮、后にたち給ふ日になりにければ」〈大和・五〉
[訳]「(今の)皇后が、皇后にお就きになる日になってしまったので」
<10>(刃物などが)切れる。さえる。
[例]「妙観(めうくゎん)が刀はいたくたたず」〈徒然・二二九〉
[訳]「妙観(=奈良時代の彫刻の名人)の小刀はたいしてよくは切れない」
<11>〔「腹立つ」の形で〕激昂する。けんかをする。
[例]「何事ぞや。童(わらは)べと腹だち給へるか」〈源氏・若紫〉
[訳]「どうしましたか。(他の)子供とけんかをしなさったのですか」
<二>
[1]設ける。設置する。
[例]「◎上(かみ)つ瀬に鵜川(うかは)をたち」〈万葉・一・三八・長歌〉
[訳]「◎上流の瀬には、鵜川(→うかは)を設けて」
[2]〔「名をたつ」の形で〕有名になる。評判を立たせる。
[例]「いとあるまじき名をたちて」〈源氏・若菜・下〉
[訳]「絶対あるべきでない男女の間の評判を立たせて」
<三>
[1](人や物を)立たせる。
[例]「◎にほ鳥(どり)の葛飾(かづしか)早稲(わせ)をにへすともそのかなしきを外(と)にたてめやも」〈万葉・一四・三三八六〉
[訳]「◎葛飾の早稲を神に供えてもあのいとしいあの人を戸外に立たせておけようか(いや、立たせられない)」
<参考>用例中の「にほ鳥の」は「葛飾」にかかる枕詞。
[2](雲・霧・煙などを)生じさせる。起こす。立てる。
[例]「船子(ふなこ)どもは、腹鼓(はらつづみ)を打ちて、海をさへ驚かして、波たてつべし」〈土佐・一月七日〉
[訳]「水夫たちは、腹鼓を打って、海までも驚かして、波を立ててしまいそうだ」
[3](道具や乗り物を)止めておく。置く。
[例]「螺鈿(らでん)の倚子(いし)たてたり」〈源氏・若菜・上〉
[訳]「螺鈿(→らでん)で作ったいすを置いた」
[4]出発させる。つかわす。派遣させる。飛び立たせる。
[例]「『春日明神』と名づけ奉りて、今に藤氏の御氏神にて、公家、男・女使ひたてさせ給ひ」〈大鏡・道長・上〉
[訳]「『春日明神』とお名づけ申し上げて、現在でも藤原氏のお氏神として、公家(をはじめ)、男や女の使いをつかわせなさる」
[5](音・声などを)高く響かせる。出す。
[例]「わざとの声たてぬ念仏ぞする」〈源氏・夕顔〉
[訳]「わざわざ声を出さない念仏をする」
[6](評判やうわさを)立てる。評判にする。
[例]「かやうに尾籠(びろう)を現じて、入道の悪名をたつ」〈平家・一・殿下乗合〉
[訳]「このように愚かなことをあらわにして、入道(=平清盛)の悪い評判を立てる
[7](誓いや願を)立てる。起こす。
[例]「喜びおきたちて、願たてさす」〈落窪・四〉
[訳]「(昇進に)喜んで起き上がって、願を立てさせる」
[8](時間を)経過させる。
[例]「その月をたてて六月一日寅(とら)の時に」〈栄花・花山たづぬる中納言〉
[訳]「その月も経過させて、陰暦六月一日の午前四時ごろに」
[9](地位・位置に)就かせる。立たせる。
[例]「小さき童を先にたてて、人たてり」〈伊勢・六九〉
[訳]「小さい子供を前に立たせて、人が立っている」
<10>(刀や針で)刺す。突き刺す。
[例]「熊谷(くまがへ)あまりにいとほしくて、いづくに刀をたつべしともおぼえず」〈平家・九・敦盛最期〉
[訳]「熊谷直実(くまがいなおざね)は、(平敦盛(あつもり)が)あまりに不憫(ふびん)で、どこに刀を突き刺せばよいとも分からなかった」
<11>(門や戸を)閉じる。閉める。
[例]「開けて出で入る所たてぬ人、いと憎し」〈枕草子・にくきもの〉
[訳]「あけて出入りする所を、(その後を)閉めない人は、まことに憎らしい」
<12>専門とする。本職とする。
[例]「この道をたてて、世にあらんには」〈宇治拾遺・三・六〉
[訳]「この(仏画の)道を本職として、生活をするからには」
<13>(生活や名誉を)保たせる。維持させる。責任を負う。
[例]「なほ家高う、人のおぼえ軽(かろ)からで、家の営みたてたらぬ人なむ、いにしへよりなり来にける」〈源氏・行幸〉
[訳]「やはり(尚侍(ないしのかみ)には)家柄も高く、人望も軽くなく、家庭の営みの責任を負わなくてもよい人が、昔から任ぜられてきていた」
<14>(建物などを)建てる。
[例]「亀山(かめやま)殿たてられんとて、地をひかれけるに」〈徒然・二〇七〉
[訳]「亀山殿(=後嵯峨(ごさが)上皇の離宮)をお建てになろうとして、地面をならしなさったところ」
<15>(目や耳を)働かせる。留める。
[例]「若やかなる殿上人(てんじゃうびと)などは、目をたてて気色(けしき)ばむ」〈源氏・蛍〉
[訳]「若々しい殿上人などは、(着飾った乙女に)目を留めて気に入っているそぶりをする」




東京書籍
「全訳古語辞典」
JLogosID : 5087220