居る
【ゐる】

<一>[自][ワ上一]<二><補動>[ワ上一]ゐ/ゐ/ゐる/ゐる/ゐれ/ゐよ
ゐる【居る】(イル)
[自]《姿勢》座る。しゃがむ。→<一>[1]
《停止》留まる。とどまる。→<一>[2]
《居住・存在》住む。いる。→<一>[3]
《地位》就く。→<一>[4]
《出現》生ずる。生える。→<一>[5]
《自然現象》(霞(かすみ)や雲などが)かかる。→<一>[6]
《感情》怒りがしずまる。→<一>[7]
<補動>《姿勢・静止》…ている。…て座る。→<二>
<一>
[1]座る。しゃがむ。
[例]「人のもとに来て、ゐんとする所を、まづ扇(あふぎ)してこなたかなたあふぎちらして、塵(ちり)はきすて」〈枕草子・にくきもの〉
[訳]「人の所にやって来て、座ろうとする所を、最初に扇であちらこちらあおぎ散らして、ちりを払い捨てて」
[2]留まる。とどまる。(波風が)おさまる。
[例]「寝殿に、鳶(とび)ゐさせじとて縄を張られたりけるを」〈徒然・一〇〉
[訳]「寝殿(の屋根)に、鳶を留まらせないようにとして縄をお張りになってあったのを」
[3]住む。いる。存在する。
[例]「京になん、あやしき所に、この頃来てゐたりける」〈源氏・蜻蛉〉
[訳]「京都の、奇怪な所に、このごろやって来て住みついていた」
[4]ある地位に就く。
[例]「前坊の姫君、斎宮にゐ給ひにしかば」〈源氏・葵〉
[訳]「前の皇太子の姫君が、斎宮の位にお就きになってしまったので」
[5]生ずる。生える。
[例]「池などある所も水草(みくさ)ゐ、庭なども蓬にしげり」〈枕草子・女のひとりすむ所は〉
[訳]「池などがある所にも水草が生え、庭などもひどくよもぎが茂り」
[6](霞や雲などが)かかる。
[例]「◎あしひきの葛城山にゐる雲の立(た)ちても居(ゐ)ても君をこそ思(おも)へ」〈拾遺・恋三・七七九〉
[訳]「◎葛城山(→かづらきやま)にかかる雲のように、立っても座っても(いとしい)あの娘ばかりを思うことだ」
<参考>用例中の「あしひきの」は「山」にかかる枕詞。
[7]〔「腹がゐる」の形で〕怒りがしずまる。
[例]「梶原(かぢはら)この詞(ことば)に腹がゐて」〈平家・九・生ずきの沙汰〉
[訳]「梶原景季(かげすえ)は、この(佐々木高綱(たかつな)の)言葉に怒りがしづまって」
<二>〔動詞の連用形や接続助詞「て」などに付いて〕…ている。…て座る。…てじっとする。
[例]「その沢のほとりの木の陰に下りゐて」〈伊勢・九〉
[訳]「その沢のそばの木の陰に(馬から)おりて座って」

![]() | 東京書籍 「全訳古語辞典」 JLogosID : 5090333 |