猫と杓子の微妙な関係とは?

個性の時代といわれて久しい現代なのに、街には「猫も杓子(しやくし)も」の感があふれています。どこを切っても同じ、実際には没個性がはびこっているようです。
この言葉の語源に関しては、いろいろな説があります。猫の手が杓子の形に似ているので、単純に言葉を並べたという説。また、猫や杓子取り(主婦)など、普段は家にいるはずの人や動物までも、という意味からという説まで、様々です。いずれにしても、「本来はそうであってはならないものまで」というニュアンス、非難の響きが含まれています。
いっぽう、『南総里見八犬伝(なんそうさとみはつけんでん)』で好意的な解釈をしているのが滝沢馬琴です。彼は作品のなかで、「禰子(ねこ)も釈氏(しやくし)も」といういい方をします。禰子は禰宜(ねぎ)、つまり神社の神官のこと。また、釈氏は僧侶のこと。ということで、「神主やお坊さんのような立派な人まで」という、どちらかというと肯定的な意味として使っているのです。いずれにしても、「猫も杓子も」を避けることが、その人の個性につながることは間違いないでしょう。

![]() | 角川学芸出版 「話を盛りあげる究極の雑学」 JLogosID : 5180115 |