角川日本地名大辞典 中部地方 静岡県 35 国道【こくどう】 道路法に基づく道路の一種で,一般国道の略称。国道の道路管理体系は,指定区間と指定区間外とに区分され,指定区間は,建設大臣が直接管理者(国の直轄管理という)で,その区間は「一般国道の指定区間を指定する政令」により指定されている。指定区間外は,都道府県知事が道路管理者となり,一部区間では日本道路公団がこれにあたる。国道の路線名・起点・終点および通過地域は,「一般国道の路線を指定する政令」によって定められている。従来の国道は,1級国道と2級国道とに区分されていたが,昭和40年道路法改正に伴い,すべて一般国道として統一された。最近,交通事情や総合開発に基づき,各所にバイパス(新道)が建設されている。各路線の総延長は,新道ならびにその区間の旧道との合計距離をいい,現道延長は,起点から終点までの通常使用する道路の距離,すなわち新道が建設されていない区間は従来の国道,新道が建設されている区間は新道の距離を加算した距離をいう。県内には,わが国道路交通の大動脈としての役割を有する国道1号をはじめ,52号・135号・136号・138号・139号・149号・150号・152号・246号・257号・301号・362号の13路線あるが,301号は257号と全線にわたり重用されている。なお,昭和57年4月付で,下田市内から現在の主要地方道修善寺下田線・国道136号・主要地方道沼津伊東線・同沼津土肥線を経由して沼津市内に至る国道414号が新設される。また,従来静岡市内と浜松市内を結んでいた国道150号が清水まで延長されるなど,ほかの国道も一部区間の路線や延長距離などに若干の変更が予定されている。 国道1号 東京日本橋を起点として,大阪までの総延長664.8km,現道延長558.3kmの国道。県下の総延長236.4km,現道延長193.7km。県下の現道延長占有率は34.7%と全体の3分の1を占め,県に与える影響は大きい。県内における舗装率・改良率(道路幅5m以上に改修されている割合)ともに100%。当道の道路管理体系は,現道については建設大臣が直接の道路管理者であり,有料道路に該当する新富士川橋などの区域は日本道路公団,これ以外の旧道にあたる区域は県知事が担当する。神奈川・静岡・愛知・三重・滋賀および京都を通過し,東京と大阪を結ぶわが国道路交通の大動脈で,京浜・中京・京阪神などの大工業地帯を結びつけ,その中間に位置する東海工業地帯を形成する三島・沼津,岳南(がくなん),静清(せいしん),浜松周辺の工業立地や田子の浦・清水両港の機能を高める大きな要因となった。わが国産業発展の上で重要な役割を果している。昭和30年代以降の高度経済成長期には,県内国道沿いに大小企業の集中的進出がみられ,激増する交通需要に対応できず,全線にわたってバイパス計画がたてられた。昭和56年現在,三島・富士・由比・金谷・浜松・沼津・島田・掛川・磐田地区のバイパスが完成し,静清,岡部・藤枝地区も一部完成して,交通事情緩和に対処している。静清バイパスの静岡地区のように土地買収問題がからんで,バイパス建設が難行しているところもあるが,いずれ東京~大阪間は,全線バイパスによって結ばれ,新国道1号となる。また,昭和44年の東名高速道路の全通により交通事情はさらに緩和された。県下の当道沿線には,伊豆箱根・富士山麓・日本平周辺・浜名湖一帯の観光地を控え,観光道路としての役割も果たしている。県内の通過区間は函南(かんなみ)・三島・清水・沼津・富士・富士川・蒲原・由比・清水・静岡・岡部・藤枝・島田・金谷・掛川・袋井・磐田(いわた)・豊田・浜松・舞阪・新居(あらい)・湖西(こさい)の各自治体。 国道52号 清水市興津中町の国道1号分岐点から,山梨県甲府市で国道20号に至る国道。総延長107.0km,現道延長93.3km。県下の総延長および現道延長はともに19.5kmで,舗装率・改良率はいずれも100%。道路管理者は全線にわたって建設大臣。清水市東部を南流する興津川沿いを通り,富士見峠を越し,芝川町を経て山梨県富沢町から富士川をさかのぼって甲府に至る。室町期以前から信州に通ずる街道として利用されたが,江戸期に身延街道として整備され,東海道と甲州街道とを結ぶ脇往還として重要な役割を果たした。富士川舟運とともに「上り塩下り米」の輸送にあたった。国鉄身延線の開通で,一時衰退したが,本州横断道路として日本海沿岸地域とを結び,産業発展のうえで期待が大きい。 国道135号 下田市武ガ浜(たけがはま)から伊豆半島東海岸を通り,神奈川県小田原市で国道1号に達する国道。総延長122.6km,現道延長94.0km。県下の総延長は97.3km,現道延長78.8kmで,県内における舗装率は100%,改良率は83.7%。道路管理は,有料道路の東伊豆道路は日本道路公団,旧道を含めてその他の区間は県知事が担当する。県内の通過区間は下田市・河津町・東伊豆町・伊東市・熱海市。富士箱根伊豆国立公園に指定された伊豆東海岸はわが国有数の温泉地帯で,下田から小田原までとぎれることなく温泉地が続き,その海岸美も国立公園に恥じない男性的で雄大な眺望を見せている。当道は,優れた観光資源に恵まれた地域を貫通しているだけに,観光道路としての機能・性格をもち,土・日曜日ともなれば,車の渋滞が最も激しいところである。また南伊豆地方は,わが国でも代表的な無霜地域で,園芸農業が発達し,大市場である京浜地方とを結ぶ産業道路としての役割をも果たしている。 国道136号 三島市東本町の国道1号の分岐点から,下田市武ガ浜で国道135号に接続する国道。総延長124.2km,現道延長118.3km。全線県内を通り,舗装率は100%,改良率は83.7%。全線にわたり道路管理は県知事が管轄。三島から狩野(かの)川沿いに北伊豆温泉地を通り,修善寺から土肥(とい)峠(船原峠)を越して西伊豆土肥に出る。伊豆半島西海岸を南下し,南伊豆有料道路を経て下田に通じる。西伊豆海岸は富士箱根伊豆国立公園に含まれ,豪快な海岸美を誇る石廊(いろう)崎や波勝(はがち)崎・黄金崎・千貫門(せんがんもん)など海食崖が続く雄大な景観とともに,東伊豆に見られない素朴な情緒を漂わせる漁村が点在している。堂ケ島(どうがしま)海岸(西伊豆町)の天窓洞(てんそうどう)は国天然記念物に指定され,西伊豆観光の中心である。伊豆半島で最も開発が遅れていた西伊豆海岸も,有料道路西伊豆スカイラインや船原トンネルの完成と南伊豆道路の当道への編入で注目され,人気が集中するに伴い,当道はますます観光的性格を強めている。また西伊豆地方は,平地が乏しく急斜面の山地が海岸に迫っているため,多雨時には,土砂崩れを起こし道路が遮断されやすい。このため交通渋滞解消と防災上の目的で,西伊豆町田子(たご)と賀茂村宇久須(うぐす)間6.1kmに宇久須バイパスが昭和51年に完成。他の地区も,順次バイパスやトンネルによる短絡化の改修が進んでいる。県内の通過区間は三島・函南(かんなみ)・韮山・大仁(おおひと)・修善寺・天城湯ケ島・土肥(とい)・賀茂・西伊豆・松崎・南伊豆・下田の各自治体。 国道138号 山梨県富士吉田市から神奈川県小田原市に至る国道。総延長66.6km,現道延長48.5kmの国道。県下における総延長は31.8km,現道延長24.3kmで,その舗装率は100%,改良率は85.5%。道路管理体制は,現道については建設大臣,有料道路乙女道路は日本道路公団,同区間の旧道は県知事の管理となる。県内の通過区間は,小山町・御殿場市。富士箱根伊豆国立公園の富士箱根地区を横断する観光的性格をもち,富士山麓および富士五湖と箱根を結ぶ。このため特に東名高速道路の開通と国道246号の拡張整備で,京浜方面からの観光客が激増し,行楽シーズンともなれば,観光バスやマイカーの渋滞が続く。御殿場市街を迂回するバイパスが昭和46年から事業化され,計画延長8.1kmのうち,御殿場市茱萸沢(ぐみざわ)から国道246号との交差地点までの1.45kmが昭和55年12月から暫定供用されている。このバイパスの建設を含め,御殿場市街および東名高速御殿場インターチェンジ周辺はその景観が一変し,かつてのローカル的性格は消滅した。 国道139号 大月街道ともいう。富士市大字青島の国道1号分岐点から,富士宮市街・朝霧高原を経て,山梨県富士吉田市で国道138号と接続し,同県大月市で国道20号に至る国道。総延長110.9km,現道延長85.3km。県下の総延長は62.4km,現道延長37.9kmで舗装率100%,改良率86.4%。道路管理は,現道については建設大臣,富士宮有料道路は日本道路公団,その区間の旧道は県知事が担当。県内の通過区間は富士市・富士宮市。富士山西麓を半周する道路で,富士宮から富士吉田にかけては,周辺に白糸の滝・田貫(たぬき)湖・朝霧高原・富士五湖一帯の観光地が多く,典型的な観光道路としての性格をもつ。特に朝霧高原を横断する富士宮有料道路からの富士山眺望は抜群である。また富士宮市内に富士山本宮浅間大社や日蓮正宗の総本山大石寺があり,四季を問わずその参詣路としてにぎわう。一方,当道における富士~富士宮間は,岳南(がくなん)工業地域の中心で,かつては富士宮の製糸工業にとって,山梨方面から原料である繭の輸送路として,また近年は製紙・石油化学工業の立地要因として重要な役割を果たしている。 国道149号 国鉄東海道本線清水駅前の国道1号分岐点から,巴(ともえ)川に架かる羽衣橋左岸までの国道。総延長・現道延長ともに2.6km,舗装率・改良率すべて100%。県内はもちろんわが国において最も短い国道の1つで,道路管理は県知事の担当。清水港と国鉄および国道1号を結び,産業道路としての性格が強い。沿線に清水臨海工業地域が形成され,倉庫群が連なり,軽金属・造船をはじめ,水産加工・石油化学・合板・電機工業が発展している。特に明治32年清水港が開港場に指定され,茶やミカンの輸出港としてわが国第1位の実績を占めて以来県下各生産地から集積される茶やミカンの輸送路としてその役割を果たしてきた。第2次大戦後,清水港は昭和27年特定重要港湾の指定を受け,岳南(がくなん)および浜松周辺工業地域との連携を深め,その工業製品の輸出港となったため,当道は,産業道路としての役割を遺憾なく発揮している。また日本平・三保松原や久能山東照宮に通じる国道でもあり,行楽シーズンには多くの観光客が利用する。 国道150号 静岡市駿河大橋で国道1号と分岐し,駿河(するが)湾沿いに南下,御前崎を経て,遠州灘海岸沿いに浜松市相生町で国道152号に至る国道。総延長100.8km,現道延長89.6kmで,全線県内を走り,舗装率は100%,改良率97.9%。道路管理はすべて県知事が行う。通過区間は静岡・焼津・大井川・吉田・榛原(はいばら)・相良・御前崎・浜岡・大東(だいとう)・大須賀・浅羽(あさば)・福田(ふくで)・磐田(いわた)・竜洋・浜松の各自治体。沿線に焼津・御前崎・大井川など多くの漁港が連なり,水産物の輸送路として利用。最近は,大井川港や御前崎港が工業港としての機能をもち,小規模ながら臨海工業地域が形成され,工業原料が頻繁に輸送されている。また,御前崎遠州灘県立自然公園の域内を通過し,砂丘や海水浴場も多く,南遠地方の産業発展や観光開発を促進する役割を果たす。静岡市用宗~焼津市間はアルカリ玄武岩の特徴を有する竜爪層群の山地で,駿河湾との比高約50~100m,平均傾斜40°内外の海食崖を形成し,大崩(おおくずれ)海岸と呼ばれる。落石や崖崩れが多く,昭和43年から定期バスの運行も中止され,しばしば交通止めがある交通の難所となっている。この劣悪な自然条件を克服するために,海上橋を建設しこの難所を迂回するとともに,昭和53年県営事業として国鉄東海道新幹線の北側にトンネルを掘り,静岡市大字広野(ひろの)から焼津市大字八楠(やぐす)までの8.4kmの大崩バイパスが完成。また同46年浜岡町大字佐倉に中部電力が原子力発電所建設に着手し,これに伴い国道150号の遠州灘沿岸区域は拡張舗装された。静岡・浜松両市域内は,周辺地域の住宅化によって朝夕の通勤時は大混雑を引き起こしている。なお,昭和57年4月付で,当道の起点は清水市の国道149号分岐点に変更となり,従来の主要地方道静岡久能清水線・県道大谷用宗線の一部が国道150号となるため,約11kmの路線延長となる。 国道152号 信州街道・秋葉街道ともいう。長野県飯田市の国道151号の分岐点から南信濃の秘境遠山郷,県境の青崩峠を経由して県内に入り,天竜川・遠州鉄道沿いを南下して浜松市薬新町で国道1号に至る国道。総延長136.1km,現道延長131.5kmで,県内の総延長87.6km,現道延長82.9km。県内の舗装率99.6%,改良率67.5%で,舗装率は県内を走る国道の中で最も低い。道路管理は全線県知事が担当する。県内通過区間は水窪(みさくぼ)・佐久間・龍山(たつやま)・天竜・浜北・浜松の各自治体。古くから信州と遠州とを結ぶ唯一の街道で,米・麦や塩などの物資の輸送路としての役割を果たした。静岡・長野県境の山岳地帯は,中央構造線に沿うため,複雑な地質構造をもつとともに,急峻な山地が迫る地形を成しているため,土砂崩壊や落石が多く,当道全線のうち最大の交通難所に当たる。この区間は,道路拡張および舗装が遅れ,陸の孤島ともいえる秘境で,青崩峠付近は車両通行不能,東側のヒョー越峠経由の町道および幅員1.5m未満の林道を使用する。県内域,中央構造線赤石裂線の発達する水窪町池島~天竜市二俣間は,水窪川および支流の翁川と峡谷や河岸段丘のみられる天竜川沿いに南下。水窪~佐久間町内の路線は,かつての「塩の道」である信州街道(秋葉街道)で,国鉄飯田線と並行する。二俣~浜松間は遠州鉄道と並行し,天竜川下流の低地を南下。浜松市連尺町で国道257号に接続し,薬新町までは昭和44年浜松バイパス貫通以前の国道1号を通過する。浜松の市街地拡大で宅地造成と工場進出が著しく,交通量の激増に対処するため,バイパスの建設が進められている。 国道246号 沼津市三枚橋の国道1号から,箱根外輪山の北を抜け,神奈川県中央部を貫いて東京都千代田区に至る国道。総延長138.1km,現道延長128.5km。県内の総延長は43.6km,現道延長は38.8kmで,舗装率と改良率はともに100%。全線にわたり建設大臣が管理する。県内の通過区間は沼津市・清水町・長泉町・裾野市・御殿場市・小山(おやま)町。中京と京浜を結ぶ国道1号の裏街道で,箱根路を避けるバイパス的性格をもつ。国道1号が三島から急勾配の箱根峠を越すため,重量の大きいトラックや大型特殊車両は,箱根峠を避けて比較的緩やかな国道246号を利用するのが目立つ。特に冬場の道路凍結時には重要な産業道路としての役割をもつ。昭和30年代末の高度経済成長に伴い,人口の都市集中と地方都市の企業誘致が顕著となった結果,交通量が激増し,道路拡張やバイパスの建設が進められている。県内区間でも全線にわたるバイパスの建設が昭和41年から事業化されており,現在,計画延長35.3kmのうち神奈川県との県境から御殿場市南西部に至る区間と裾野市御宿地区の約18kmが暫定供用されている。並行する東名高速道路が交通量緩和には役立っているが,箱根・富士五湖および富士山麓などの観光地を控え,行楽シーズンには自家用車や観光バスが列を連ね大渋滞を引き起こしている。 国道257号 岐阜県高山市から愛知県北東部を経て,静岡県引佐(いなさ)郡に入り,引佐町・細江町を通り,浜松市篠原町で国道1号に至る国道。総延長260.1km,現道延長183.2km。県内の総延長・現道延長はともに34.7kmで,舗装率は100%,改良率は87.6%。浜松~引佐町間は,ほぼ道路整備は完了しているが,引佐から県境にかける区間の整備が遅れている。全線にわたり道路管理は県知事が担当。県西部を南北に走る国道で,全般に幹線道路というよりもローカル色が強い。浜松~細江間は,浜松の都市化の進展に伴う通勤圏の拡大と工場の地方進出で,交通量の激増に対処するため,バイパスの建設が進められている。 国道362号 愛知県豊川市から本坂峠を越し,三ケ日(みつかび)・細江・浜松・浜北・天竜・春野・中川根・本川根の各自治体を通り静岡市昭和町で国道1号に接続する国道。総延長173.4km,現道延長160.3km。県内の総延長は160.9km,現道延長151.3kmで,全線にわたり県知事が管理する。県内区間の舗装率は99.9%であるが,改良率は極めて低く36.9%。県中西部の山間部を東西に走る国道で,幹線道路ではあるが,ローカル的性格が強い。俗に静岡春野天竜線と呼ばれ,従来は県道であったが,昭和50年国道に昇格。沿線の山間地域は,フォッサマグナと中央構造線とに挾まれた劣悪な地質構造をもった地域であるため,崖崩れや落石でしばしば通行が遮断される。こうした厳しい自然条件であるため,道路整備は進まず,都市周辺部と集落内では道路幅5m以上に拡張整備されているが,大部分は山道で,各所で改良工事が進められている。 KADOKAWA「角川日本地名大辞典」JLogosID : 7111447