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伊勢志摩国立公園
【いせしまこくりつこうえん】


県南東部,伊勢と志摩半島および熊野灘沿岸の南島町に及ぶ国立公園。日本を代表する海洋公園で,第2次大戦後初の国立公園として昭和21年11月20日に指定。昭和25・27・40年の公園計画の決定を経て,昭和52年2月には南島町海岸部と国立公園指定区域の地先海面1kmが追加指定され,面積(陸域)5万5,549.8haとなった。伊勢市(1万1,377.6ha)・鳥羽市(1万719ha)・二見町(1,207ha)・南勢町(1万978ha)・南島町(3,323.2ha)・浜島町(2,635ha)・大王町(1,287ha)・志摩町(1,763ha)・阿児(あご)町(4,449ha)・磯部町(7,811ha)の2市8町にまたがっており,うち特別保護地区が947.8ha,特別地域1万6,510ha,そして普通地域3万8,092haと特別保護・特別地域が全体の31.4%を占める。さらに海域1万9,100haをもつ。日本最大の半島である紀伊半島の東端を占める当公園は,地形的には,水成岩からなる起伏のある丘陵・台地が大部分であり,特に前志摩などにみられる海食作用を受けた標高30~40mの広い海成段丘よりなる隆起海食台地が,大きな特色としてあげられる。さらに海岸部は屈曲の激しい典型的なリアス式海岸と多島景観が続き,南部を中心に海食崖・海食洞の発達がみられ,公園最高峰の朝熊ケ岳(555m)山頂からの眺望は特に素晴しい。植生からみると,神社林としては日本最大の規模を誇る伊勢神宮林があげられる。広大な面積を占めるこの区域は深い暖帯性常緑広葉樹林が広がり,カシ・イチイ・クスをはじめ林床植物に至るまで約140科・900種が生育,貴重な天然林として学術的にも興味深い。また80種以上の鳥類も林内に生息することが知られている。志摩地域の海岸部はハマユウの群生で有名な暖地性植物が目立ち,多くの海鳥が生息する。魚類はもとより,アワビ・サザエ・ワカメは伊勢・志摩の代名詞ともなっている。観光の中心は,2,000年の歴史をもつ伊勢神宮と志摩の海岸に集約できる。天照大神を祀る伊勢神宮は,皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)を2本柱に大小123の神社からなり,日本の歴史の中で極めて重要な役割を演じてきたと同時に,古くから庶民の信仰のシンボルともなって,特に江戸期に入ってからは,一生に一度は参りたいところとして伊勢参宮が広く庶民の間に定着した。現在では昔ほどではないものの,まだ根強い人気を保ち,荘厳な境内,五十鈴川の清流,唯一神明造りの神殿,後背の神宮の森をバックに訪れる人の心をなごませてくれる。朝熊ケ岳山頂には内宮の奥の院として知られる金剛証寺があり,二見ケ浦の夫婦岩は修学旅行の学生でにぎわう。また,志摩地域の海の景観は,入り組んだ静かな的矢・英虞・五ケ所湾と,太平洋に面した大王崎・安乗崎に代表される。特に英虞(あご)湾は,明治26年に御木本幸吉が養殖に成功して以来の真珠養殖のメッカとして名高く,真珠のふるさと,として世界各地からの観光客を集めている。波静かな英虞湾に真珠のいかだが浮かぶ構図はまるで絵のようである。五ケ所湾は絶好の釣場として人気が高く,的矢の無菌ガキは全国的に有名になっている。こうした静かな内海では,最近は少なくなったとはいえ,海女漁業のメッカでもあり,海岸で濡れた身体を焚火で温める磯着姿の海女を見ることもできる。それとは対照的に,太平洋に面する前志摩半島は断崖絶壁に荒波が砕ける男性的な景観を示し,良漁場でもある波切や安乗の白亜の灯台は古くから格好の画題として数多くの画家を魅了し続けてきた。伊勢・志摩地域には,20年に一度古式豊かに繰り広げられる伊勢神宮の式年遷宮の行事にはじまって,志摩のわらじまつり・汐かけまつりなど奇祭や安乗文楽など地方独特の伝統文化が各地に息づき,伊勢参宮,志摩の民俗に関する資料館や記念館なども興味深い。一方では,世界的に知名度の高い鳥羽の水族館,賢島のマリンランドも観光の名所として,日曜・祭日には家族連れでにぎわいをみせる。近鉄が賢島まで直通の上,伊勢道路(伊勢~磯部),伊勢湾フェリー(鳥羽~伊良湖),水中翼船(鳥羽~蒲郡),ホバークラフト(鳥羽~蒲郡)など交通の便が良く,二見・鳥羽の旅館,ホテルの従来の集積に加えて,近年は奥志摩を中心にホテル,別荘の進出が著しく,活気を呈している。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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