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伊勢の海
【いせのうみ】


歌枕。伊勢・伊勢の海は万葉以来,歌に詠まれ続けるが,その大部分が海にあこがれた都人によるものである。「万葉集」に詠まれる伊勢の海は「伊勢の海の磯もとどろに寄する波恐き人に恋ひわたるかも」(笠女郎)をはじめとして,外洋性の荒海で「伊勢の南部から志摩にかけての海を称した」(万葉の旅)と思われるが,平安以降の歌枕としては「清き渚」「清き浜辺」と詠まれ,ほぼ今の伊勢湾の称とみてよい。「平安和歌歌枕地名索引」は「古今集」以後の歌枕74首を数える。他に「伊勢の浦」「伊勢海の小野湊」「伊勢海の千尋浜」「伊勢の浜」とも詠まれ,なかでも「草の名も所によりて変るなり難波の葦は伊勢の浜荻」(菟玖波集巻14)といわれるように,「浜荻」(葦)は著名な景物であった。昭和34年の伊勢湾台風以前は白砂青松の清き渚に「浜荻」乱れる伊勢海で,今日の護岸堤防に囲まれたものではなかった。また「伊勢の島山」「伊勢島」も詠まれ,後者は多く「一志の浦」(津市南部,三雲村)と詠み合わされている。「伊勢のあま(海士・海女)」「伊勢雄」を含め,いずれも歌枕「伊勢の海」を形造る景物で,すべて含めて約170首が確認できる。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7125191