伊勢平野
【いせへいや】

県最大の平野。東は伊勢湾に臨み,西は鈴鹿・布引山地に,北は養老山地に境され,南は中央構造線を介して外帯の山地に接する。南北約80km・東西10~20km,面積約1,300km(^2)。現在の伊勢平野はかつて新第三紀の頃は内海または湖であったので,その頃の堆積物が一志(いちし)層群・奄芸層群として分布し20~300m級の丘陵・台地として残っている。また鈴鹿・布引山地の山麓には扇状地がよく発達している。沖積低地は,海岸の近くは南北に長く連なり,木曽・長良(ながら)・揖斐(いび)3川の下流や鈴鹿川・雲出(くもず)川・櫛田川下流部に広がる。河川は北から木曽・長良・揖斐・員弁(いなべ)・朝明(あさけ)・鈴鹿・安濃(あのう)・雲出・櫛田・宮の諸川で伊勢湾に注ぐ。各河川の河口付近は低地となっている所が多く,特に木曽三川下流部は濃尾平野に続く低湿な輪中地帯の一部となっていて地盤沈下が著しい。伊勢平野の気候は静岡・愛知両県平野部と共通の温暖な東海型気候で,年平均気温14~15℃,年降水量約1,800mm。その特色をみると冬の季節風が強く,北部では雪を伴うことが多い。鈴鹿おろしといわれる空っ風は名産伊勢たくあんの乾燥に欠かせない。夏は海岸部に海風の発達がみられ,暑さをやわらげる。湾曲した海岸線に対し,直角の方向に吹くので風向きは平野全体としては一致していない。南北に長いので北端の阿下喜(あげき)14.6℃,中央の津15.4℃,南部の伊勢15.9℃と年平均気温に南北差がみられる。年降水量は阿下喜2,199mm・津1,722mm・伊勢2,179mmで中央部に少なく南北部に多い。木曽三川の三角州,鈴鹿川・安濃(あのう)川・櫛田川流域の沖積地,海岸沿いの低地では米作中心の農業が盛んで,木曽三川の三角州は収穫率1ha当たり450kgをあげて県内最高である。また中勢地方は良質の伊勢米の産地として有名。生産量は約15万t(昭和55年),かつて北部は大麦,南部はハダカムギの産が多かったが,共に減少し,ナタネも影をひそめた。丘陵と台地での茶と桑の栽培は明治期以後盛んになった。第2次大戦後は養蚕の衰微とともに桑も少なくなり,茶は鈴鹿山脈の東麓や宮川・櫛田川の河岸段丘上に多く作られている(四日市市2,170t・鈴鹿市2,037t・亀山市927t・度会町410t・大台町256t・飯南町216t,昭和56年農林水産統計)。全国第3位の生産をあげる伊勢茶の名が高い。伊勢たくあんの原料となるダイコンは,伊勢市・明和町・鈴鹿市に多い。伝統的な工業としては,江戸期およびそれ以前に起源をもつものに桑名の鋳物・焼蛤・かぶら盆・和ダンス・仏壇,四日市の万古焼・製薬,鈴鹿市の伊勢型紙,津市の阿漕焼・伊勢木綿,松阪市の松阪木綿,伊勢市の春慶塗・万金丹・造船等があり,これに明治期に始まった四日市市の漁網,鈴鹿市の墨,亀山市のろうそく,津市のタオル織,津・久居の日本瓦等がある。この中で生産額の多いものは桑名の鋳物,四日市の万古焼・漁網,津のタオル織等である。近代工業については,明治19年四日市に本社を置く三重紡績の創業をもって初めとする。四日市を中心として伊勢湾沿岸の各地に工場が建てられた。昭和初期にセメント・板ガラス・石原産業の工場が四日市内外にでき,市が工業都市として発展する礎となった。戦時体制下に繊維工場の軍需工場化,四日市に海軍燃料廠,鈴鹿・津に海軍工廠の建設となり終戦を迎えた。第2次大戦後は軽工業中心に復興が行われたが,昭和30年代から近代的な大施設をもつ工場が相次いで誘致され,質的向上と工業生産の飛躍的な増進がなされた。なかでも四日市は石油化学工業の一大基地,鈴鹿市は内陸型工業都市に変貌し,津市は繊維工業のほかに巨大な造船所を誘致,松阪市は繊維工業のほかにセントラル硝子が,伊勢市近郊には横浜ゴム工場ができるなど,伊勢湾を取り巻く工業都市群は中京工業地帯の一環となった。昭和55年の県工業統計によると,事業所数8,418で県下の77.3%,製造品出荷額等は約3.4兆円で県下の88.8%を占める。出荷額等の多い都市は,四日市(1.75兆円)・鈴鹿(6,000億円)・津(2,287億円)・松阪(2,130億円)・亀山(1,962億円)・桑名(1,830億円)・伊勢(1,426億円)の順である。商業活動も伊勢湾沿いの都市において活発で,同55年の年間販売額は約2兆円で,県下の85%を占め,津(5,535億円)・四日市(5,418億円)・松阪(2,288億円)・伊勢(2,063億円)・鈴鹿(1,396億円)・桑名(1,090億円)の順である(県統計)。名古屋・湊町(大阪)間をつなぐ国鉄関西本線は平野の北寄りに通り,桑名・四日市・鈴鹿・亀山の諸市を連ねて上野盆地に入り,国鉄紀勢本線は亀山より南下して津・松阪を連ねて紀伊山地に入り,四日市~津間に国鉄伊勢線,多気~鳥羽間に国鉄参宮線がある。このうち名古屋~亀山間は電化された。近鉄は名古屋~大阪間,名古屋~賢島間を通り,平野の主な都市はすべて沿線にあり,旅客輸送の大動脈となっている。ほかに桑名~阿下喜(あげき)間の北勢線,四日市~湯の山温泉間の湯の山線の支線がある。道路網も整備され,国道1号が愛知県より入って北部諸市を連ねて鈴鹿峠に向かい,海岸沿いに国道23号が伊勢市に至る。中央部では国道165号が津市から久居を経て上野盆地に向かい,松阪市より国道166号が櫛田川沿いに,同42号が紀伊山地に向かう。高速道路としては北部に名阪国道がほぼ東西に山麓部を通って上野盆地に向かい,これと関で分かれて伊勢自動車道が久居まで通じている。やがて伊勢市まで延長される予定である。

![]() | KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7125195 |





