100辞書・辞典一括検索

JLogos

12

吉野熊野国立公園
【よしのくまのこくりつこうえん】


三重・和歌山・奈良3県にまたがる国立公園。山岳海洋公園で,紀伊半島南部の大部分を占める。昭和11年2月1日国立公園に指定。昭和45年7月に引き続き,同50年12月には,楯ケ崎など特別保護地区4か所163haと海中公園地区2海域14.4haが追加指定されて,面積5万9,103.8ha,うち当県域は1万6,117.4ha(27.3%)を占めている。熊野市(1,137.4ha)・尾鷲市(1,828ha)・御浜町(103ha)・紀和町(2,877ha)・紀宝町(1,295ha)・鵜殿村(4ha)・宮川村(8,873ha)の2市3町2村が当園域に含まれ,特別保護地区163ha・特別地域4,265.1ha・普通地域8,138haに区分され,特別保護・特別地域が27.5%を占める。さらに海域として海中公園14.4haが加わる。この区域は,古生・中生・三紀層の岩層が順序よく並ぶ内陸山岳地帯大台ケ原と,大台ケ原を水源とする河川のつくるV字渓谷群,および熊野灘の隆起海岸とおよそ3つの地域特性を有する。一帯は温暖多雨気候に属し,山岳部は特に年間雨量4,000~4,500mmという本州最大の多雨地帯として知られ,動植物分布にも大きな影響を与え,野生生物の宝庫として注目される地域。大台ケ原は,大和アルプスに属し,近畿の屋根の名にふさわしい勇壮な姿をみせるが,大杉谷と並んで,長い間交通が不便でほとんど人跡未踏の地として隔離された状態にあったため,地域の大部分に原生林を残し,多種の樹木が鬱蒼と生い茂り,昼なお暗い神秘の世界を作っている。標高1,600m付近は亜寒帯針葉樹林で占められ,1,200m付近の高山植物,シャクナゲ・オオヤマレンゲ・トガサワラなど約500種,日本の高山植物の約3分の1がここに分布しており,学術調査も広く行われている。野生動物も多く分布し,ツキノワグマ・カモシカ・ムササビ・サンショウウオが生息する。大台ケ原を水源とする河川はいずれも断崖絶壁,奇岩奇石,清流と典型的な渓谷美を作り出しており,大杉渓谷・瀞峡はその代表的な渓谷といえる。宮川の大杉谷渓谷は秩父古生層と砂岩の互層によるV字渓谷で,高さ200mの千尋の滝をはじめ,多数の大小の滝が点在し,急流や淵をつくり,絶壁が迫り,景観に優れる。渓谷周辺は原生林が続き,2つの気候帯をもつ地域として注目されている。長い間秘境となっていた大台ケ原・大杉谷も昭和36年に大台ケ原有料道路の開通を契機に登山者が急増,松阪市から登山道入口までバスが通い,大台ケ原ドライブウエー・宿泊施設の整備もでき,現在では登山者・ハイカーたちが訪れる。瀞峡も大古の滝が浸食を受けてできたといわれ,断崖・絶壁と深い緑色の淵とのコントラストをジェット船上から楽しむことができる。大森林地帯とは対照的に熊野灘の海岸線は陽性で,黒潮の洗う南国的雰囲気を漂わせている。大部分が海食崖・海食台からなり,男性的な海岸線沿いの奇岩は火山岩の噴出によるもので特異な景観を呈し,その代表的なものが鬼ケ城である。熊野市木本町の海岸線約1kmに及ぶもので,火山岩の海食作用と地震などによる陸地の上昇によるものとされ,石英粗面岩の壁面に大小様々の洞を彫り込んでいる。最大の千畳敷は高さ15m・広さ1,470m(^2)もあり,熊野灘の荒波とのコントラストはまさに鬼の住み家の観がある。入口付近にはヘルスセンター・みやげもの店が並び,徒歩1時間半余で1周できることから,観光名所として多くの人が訪れる。鬼ケ城の南には獅子が咆哮する姿をした獅子岩,イザナミの御陵と伝えられる花の窟があり,七里御浜の海岸が25kmにわたって続く。この浜は女性的な美しさで知られ,御浜石を産する。熊野灘沿岸には柱状節理をみることもでき,二木島湾口の楯ケ崎,尾鷲湾口の佐波留(さばる)島などの大絶壁で知られる。温暖多雨な気候によりハマユウ・オニワタリなどの亜熱帯性植物の群生が見られるのもこの地域の特徴で,佐波留などの特別保護地区にはスダジイ・ウバメガシ・タブノキ・イスノキといった常緑広葉樹を主とした天然林が保護されている。また熊野灘沿岸は絶好の釣場が多く,陸釣りから沖合での磯釣りは釣人にとっては最も魅力的な地域といえる。国鉄紀勢本線が通じ,松阪から国道42号を特急バスが運行されて交通の便はよい。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7129915