100辞書・辞典一括検索

JLogos

32

飛鳥川
【あすかがわ】


竜在峠付近より発し,高市郡明日香村祝戸で稲淵川と冬野川(細川)を合流し,大和三山の間を西北に流れ,橿原(かしはら)市八木と同市今井の間を通り,北上して河合町河合付近で大和川に合流する。延長25km,流域面積42.9km(^2)。明日香村祝戸までは岩の間隙を縫うような渓流で,祝戸より同村豊浦までの両岸に段丘を形成する。かつては,豊浦から北流し,天ノ香久山の西方を流れていたものと思われるが,地盤変動で流れの向きが変わり甘樫丘と雷丘の間を切って北西に転じた。甘樫丘の北側では,河床に花崗岩が露出し,「石出の滝」となっている(明日香村史)。橿原市小房町から今井町にかけてはクランク状に曲流し,この付近がたびたび破堤し,橿原市に水害をもたらした。本格的な堤防改修は大正以降で,昭和になってからは洪水の被害はなくなった。橿原市街地以北は,条里制地割に規制されて流れる。上流部では,豊富な水量のため11世紀頃から灌漑に用いられた。飛鳥川には木葉堰・豊浦堰・大堰・今堰・橋堰・飛田堰・佐味堰の7つの堰が存在したことが史料に見える。現在でも明日香村の岡・橘川原・豊浦など沿岸の大字ごとに井堰を設けているばかりでなく,木葉井堰によって,下流の橿原市木之本までが給水を受けている。中流部はほとんど涸川のようになるが,下流部で再び水量が豊かになる。飛鳥川は古くから歌に詠まれることが多く,「万葉集」にも25首あり,このうち21首に「明日香」の文字が用いられている(明日香村史)。「今日もかも明日香の川の夕さらず河蝦鳴く瀬の清けかるらむ」(万葉集356)は,かわずの鳴声の聞こえる静かな清流を詠み,「今行きて聞くものにもが明日香川春雨降りて激つ瀬の音を」(同前1878)では,たとえ春雨とはいえ,いったん雨が降れば激流になり,川の様相も一変する程荒々しさを見せることが詠み込まれている。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7165199