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人形峠鉱山
【にんぎょうとうげこうざん】


東伯(とうはく)郡三朝(みささ)町と岡山県との境にある人形峠のウラン鉱山。鳥取・岡山両県の県境をなす人形峠は標高735mで,周辺には高清水高原が広がる。現在,人形峠はトンネル化され,国道179号が地下を貫通する。人形峠鉱山はウラン鉱山として世界的にも有名になっている。昭和30年11月12日,人形峠のウラン鉱は工業技術院の地質調査所によって発見された。当時,地質調査所は全国各地でウラン資源の調査に当たっており,当初ウラン資源は鉱脈型ウラン鉱床にのみ焦点が当てられ,花崗岩など火成岩体に調査の目が向けられていたが,人形峠のウラン鉱床は,当初の予想をくつがえし,日本では最初の堆積型ウラン鉱床であること,特有のウラン鉱物を有することなど,特色あるウラン鉱山として注目を浴びた。現在,発見地に記念碑がたつ。その後,原子燃料公社によって,東西30km・南北20kmにわたる広範囲の探鉱が行われた結果,約30万t余の堆積型ウラン鉱床の賦存が見込まれるに至り,現在までに人形峠地区に8鉱体,東郷鉱山に15鉱体が確認されている。また,小鴨鉱山・円谷・歩谷地区には鉱脈型ウラン鉱体も確認されている。堆積型ウラン鉱床は,新生代新第三紀新世~鮮新世末の堆積層(人形峠層)に胚胎し,この堆積岩層はさらに安山岩溶岩などの火山岩類に覆われ,基盤の花崗岩浸食面とに挾まれている。中国山地を形成するこの基盤岩類(花崗岩体や三郡変成岩類)は鮮新世前期までの隆起や削剥によって準平原化されており,東郷地区の海抜200~300mに発達する三朝湖盆,700~800mの人形峠湖盆などのいわゆる堆積盆が形成された。この堆積盆に発達した旧河川の流路と考えられる舟底状構造(チャンネル構造)に堆積した砕屑物層で三朝層・人形峠層や中津川層と呼ばれる最も下位の層準にウランは含まれる。規模は一般に幅10m内外・延長100m・厚さ数m程度で,その底部や翼部にウラン鉱を集積する。この層準の上位には必ず火山岩類が分布し,基盤の花崗岩体から浸出したウラン化合物が封じ込められたものと考えられる。主なチャンネル構造は,人形峠地区で夜次(よつぎ)・中津川・十二川・赤和瀬・恩原などの各地区,東郷地区では方面(かたも)・麻畑・神ノ倉の地区によく発達する。ウラン鉱物として,非酸化帯においては人形石を主体とし,閃ウラン鉱・硫化鉄鉱・石膏などが随伴し,酸化帯では燐灰ウラン石が主体で,ウラノフェン・β‐ウラノフェン・ボルトウッド石・カルノー石・ウィクス石・燐銅ウラン石・褐鉄鉱・粘土などが認められ,その品位はおしなべて0.05~0.1%である。人形石は人形峠鉱山で最初に記載された鉱物で,肉眼的には粉末状黒色の鉱物であり,燐灰ウラン鉱は黄緑色の美しい輝きを持つ。人形峠産の原鉱は昭和34年8月,茨城県東海精錬所に送られ,イエローケーキが粗製錬され,同36年4月28日純国産ウラン約200kgが日本で初めて精錬され,以来年間200t内外が送られてきた。現在では,人形峠岡山県側の上斎原村に設立された動力炉核燃料開発事業団の粗製錬工場で加工された後,東海村原子炉に送られている。しかし人形峠地区のウラン鉱山のうち,露天掘りを除いては一応採掘を中止しており,その理由は低品位なうえ,外国からも入手可能なこの時勢には不利な面もあり,温存という形で有事の際に備えているという。人形峠鉱山では世界各地の鉱石の試験,六フッ化ウランの生産・濃縮も行われている。人形峠の濃縮工場は7,000台の遠心分離器を使って稼動している。天然ウラン中に0.7%しか含まれていない235Uを軽水炉型原子炉の燃料に使えるように約3%まで上げるが,この濃縮ウランは純国産であり,国家機密でもある。人形峠は一大ウランセンターとして,燃料ウランとしての物理・化学的性質や処理法,鉱山・鉱床に関する工学理論などあらゆる研究を行っている。




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「角川日本地名大辞典」
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