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皐月松原
【さつきまつばら】


宗像(むなかた)郡玄海町の上八(こうじよう)から神湊までの松原。宗像市・宗像郡を貫流する釣川の河口周辺約5kmの弓状砂浜にクロマツが生育し,大半が防風保安林指定の国有林で,玄海国定公園の一角をなす景勝地。「筑紫海路記」は,白砂青松,紺碧の海のこの地を伊勢の二見浜,日向の小戸浜と並ぶ日本三浜として賞揚,「続風土記」には,「五月浜 江口村の境内にあり,田島より十三町北也。むかし田島の神の御旅所也。五月松原あり……五月五日此所にて競馬をなす。此故に五月浜といふ」と見える。黒田長政は入国直後の慶長7年,竹森儀左衛門に命じて海岸一帯に植林させ,元文3年の黒田継高の書状では,松林の保護と植林,伐採の厳禁を命じている。防風林育成の考え方は,長く受け継がれ,宗像郡内では毎年山判が行われ,違反者には科代植が課せられ,防風林の松の木を伐ることは,明治期に入っても村人の間で厳しい批判の的となった。海浜の白砂は,釣川により海に運ばれた土砂が,波浪で岸に寄せ,海風で吹き上げられたもので,海に向かって植林が続くことから,汀寄りに若齢樹や松苗補植地も見られる。現在,松林の一部は海浜から500mにも達する。他地区のクロマツ林と異なり,かなり遷移の進んだ状態で,低木層にトベラ・マサキ・ヒメユズリハ・ヤブニッケイ・クロガネモチなどが分布し,林床はキヅタで覆われる。松原南端の神湊付近では,クロマツの幹にボウランの着生が多い。最近はマツクイムシの被害が目立ち,約20万本のうち,年間750本程度が枯死している。海浜の砂丘地帯には,松林に沿ってコウボウムギ・ケカモノハシ・コマツヨイグサ・ハマグルマなどが3kmにわたって生育,県内唯一の海浜植物群落の原生地となっている。松林の中には,神湊鉱泉・県立少年自然の家・企業の保養所・玄海ゴルフ場などが点在,夏季には,林内を通る県道岡垣玄海線への自動車の乗入れが禁止され,キャンプ場・海水浴場としてにぎわう。沖合の海底砂採取のため,海浜浸食は激しく,砂浜がやせ細りつつある。砂浜の供給源の釣川河口は,海岸砂丘に流路を阻まれ,かつては皐月橋の辺で北東へ曲流し玄界灘に注いだ。砂丘内側の湿田や小川・池沼は,旧流路の名残で,旧河口が江口湊であった。江口の近くには米出(こめだし)の地名が残る。釣川の川尻が掘り切られたのは,宝暦2年で,「地理全誌」に「村ノ西北ニ水面七段許ノ池アリ。古川池ト称ス。今蓮ヲ植フ。其水又田地五町六反ニ沃ク。地卑湿ニシテ,田トナス。是湊址ナリ。黒田氏入国ノ初メマテハ用舟ヲ此ニ集メ,水手モ村内ニ居レリ」と見える。松原の中には,神湊新波止・浜宮・上八などに貝塚があり,皐月松原の北東端にある上八貝塚からは,渦巻き文に磨消縄文を施した土器が出土し,鐘崎式土器の標準遺跡になっている。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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