水月寺
【すいげつじ】

六郷山序分本山本寺の1つ。豊後国速見(はやみ)郡山香(やまが)郷のうち。現在の速見郡山香町大字向野字松尾の津波戸山(標高約529m)上に所在。今は廃寺となっているが,頂上近くにやや平坦な地があり,ここが水月寺本堂跡と伝えられる。「六郷山諸勤行注進目録」に「本山分一津波戸石屋本尊千手観音菩薩」とある(太宰管内志)。さらに少し登ると東側の岩壁に窟があり,窟前に観音堂がある。先年その前面の土中から,観音堂で使用したと思われる土師器片が採集された。平安末~鎌倉初期のものであろう。窟に向かって左側の岩根からは清水が湧いている。前記の「六郷山諸勤行注進目録」に,「斉衡二年二月十五日同聖人(仁聞(にんもん)菩薩)自筆書如法経給,時為硯水以筆ノ軸指白岩給,自軸ノ跡霊水漲り出事于今新也,当代此水取満山仁書如法経」とあるのがこの清水のことである。観音堂に向かって右側の窟の中には,異形国東塔2基と五輪塔などが納められている。山麓に曹洞宗の津波戸山海蔵寺があるが,これは約360年前,地元の人々によって,水月寺再興の意味で建立されたものと伝えられている。観音堂の千手観音は,現在この本堂に安置されている。なお津波戸山の頂上には経塚があり,経筒と和鏡とが出土した。刻銘に「永保三年九月二十二日」とあるから,奈良県の金峯(かねのみたけ)神社所蔵のものよりは76年後に埋経の供養をしたもの。

![]() | KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7231183 |





