船越村(近世)

　江戸期～明治前期の村名。高来郡のうち。佐賀藩諫早領。諫早郷に属す。村高は，「正保国絵図」では540石余，「天明村々目録」541石余，「天保郷帳」697石余，「旧高旧領」1,264石余。給人・地米高は，「玄梁院様配分帳」「大小配分石高帳」ともに諫早豊前（諫早領）850石余。天保３年の諫早私領田畑石高帳では，田・畑・屋敷の地米高850石余，出来田・出来島の地米高181石余で，合計地米高1,032石余となっている。寛政元年巡見録（佐賀県立図書館蔵）によれば，上納（石廻）は１石に付き３ツ７合（３斗７升），反米１石につき５升，口米１石につき４升，畠上納は米１斗（高）につき大豆２升・小麦５升・大麦１斗３升，米１俵は国枡にて３斗１升で，山成はなく，川土井普請用は願い出により伐出しができ，百姓当用の薪炭用も少額の代銀を納入すれば伐り取りができたとある。諫早市中から上門口を経て南に向かう通り筋の上ノ馬場は，江戸後期に至り商人の居住が増えて市中化したが，幕末には佐賀藩の農商分離政策に基づく取締りが急激に強化されたため，田畑もなく困窮した住民たちが慶応３年同所を郷村から分離して市中扱いとなるよう請願をこころみた。神社では諫早郷の総鎮守四面宮（別当寺は真言宗五智光山荘厳寺），御霊宮，八幡宮があり，寺では曹洞宗天祐寺（領主菩提寺），同宗広福寺，臨済宗性空寺，天台宗平仙寺（領主祈願寺），慈眼院（平仙寺末），福寿坊（天台修験）などがある。明治４年佐賀県，伊万里県を経て，同５年長崎県に所属。明治２年の版籍奉還後，諫早の武家地，すなわち輪内の中核部に当たる御屋敷をはじめ本小路・裏小路・泉野・原口などの諫早家中関係施設や家臣団の住宅が多数存在する地域が当村に含まれるようになった。このこともあって，明治７年に当村を諫早郷と改名したいと長崎県に請願した。「長崎県史稿」の同年の記事に「諫早ハ旧佐賀藩ノ管地ニシテ，乃チ諫早氏ノ采邑タリ，仍テ其采地ヲ総称シテ諫早トス，維新後之ヲ各村ト区別セント欲シ，巷名船越ノ称ヲトリ，以テ村名トス，然モ民猶其旧称ヲ唱エ，更ニ定名ナキカ如シ，於是土俗ノ称呼ニ依リ，遂ニ諫早郷ニ復スルナリ，七月廿八日之ヲ内務省ニ上申ス」とある。これにより，明治７，８年頃諫早村と改称した。なお，「北高来郡誌」「諫早市史」は明治９年の改称とするが，すでに明治８年の神社明細帳・寺院明細簿などの文書には諫早村と記載されている。

KADOKAWA 「角川日本地名大辞典(旧地名編)」 JLogosID : 7449305