芝原用水
【しばはらようすい】

芝原上水，また御上水，御浄水ともいう。吉田郡松岡町志比堺で九頭竜川から取水し，福井城下の飲料水として長年利用された用水。取水口が中世の芝原荘の地にあたることから名がついたという。慶長年間，結城秀康の北庄城下建設の際，家老本多富正が直接工事に当たった。城下へ向かう用水路は九頭竜川の一分流を利用したものといわれる。東藤島村（現福井市）中ノ郷地内二口(ふたくち)で外輪用水と内輪用水に分かれ，前者は同村堂島地内で三分，中藤島・円山西・西藤島各村（いずれも現福井市）を灌漑して日野川・九頭竜川に入る。後者は東藤島村島橋で円山東村（現福井市）へ支流を分け，残りは旧勝山街道に沿って西進し，志比口より福井城下に入った。ここで２筋に分岐し，１つは地蔵町に入り，南西の八軒町の閘門（ドンド）より三味線樋で城内に引き込まれ，武家屋敷の飲用に利用された。八軒町よりさらに西に流れる用水は，いったん宝永上町より城濠に入り，佐佳枝下(さかえしも)町より再び城濠から出て明里(あかり)用水となり，下流の田畑を灌漑した。もう１筋は志比口の荒橋付近から西流して，城下北縁を天王社前から筏町の方へ流れ，筋違橋付近で呉服町通りを横切ったのち北西に折れて底喰(そこはみ)川に流入した。この水は北の松本町組・室町組・下呉服町組の町方と江戸町の武家屋敷の飲料水に利用されたが，これを幹線として幾本もの小流が小路に沿って東西南北に流れ，町民の日常生活に支障がないように配置されていた。これらの小流は筋違橋付近で再び集まり，さらに北西へ流れて田原用水となり，また南西に向かう一流は東明里・菅谷付近の灌漑用水となった。城下一帯は地下水が浅く，鉄分が多くて飲用とならず，飲料水として重要であったため，藩は直轄用水として厳重に管理した。御目付の監督下に上水奉行を置き，配下の御長柄組の足軽２人に常時用水筋を巡視させた。水の清浄を保つために利用する住民も厳しい規制を受けた。用水で手足を洗ったり，物を捨てたり，あるいは勝手に橋を架け，許可なく溝を作って屋敷内に水を引くことなどは禁止された。禁を破れば本人はもちろん，関係地区の庄屋や長百姓までが連帯責任を負って処罰された。さらに取締りを徹底するため，川筋の各所に禁制事項を記した制札が立てられた。町民が用水を利用する際は，町組ごとに樋口４寸４分の木管で取水させたという。町うちでは町奉行の指揮で各自が関係地掛りの掃除を行い，上流部では郡奉行の指揮により，川筋の家から１戸１人ずつ出て川ざらえを行った。廃藩後委員制で管理し，明治18年より水利土功会を設けて吉田郡長の管理下に置き，同23年には水利組合条例に基づく組合を結成した。福井市も水路巡視を２人置いて常時取締らせ，３人の常用夫に各受け持ち区域を掃除させた。さらに春と秋には約300人を動員して川掃除を行っていた。その後，城内の外濠・中濠は漸次埋め立てられたが，農業用水として重視されるようになり，市街地を流れる水路の改修とともに，光明寺用水，四ケ用水など新しい用水も開設された。大正14年の上水道完成後は，市街地では完全に排水路化した。第２次大戦後は戦災復興都市計画事業，下水道建設などに伴ってさらに大きく変貌し，田原用水は暗渠化されて底喰川へ流れ，水路の一部は廃止された。明里用水も宝永以西は消滅し，北流して光明寺用水に統合流された。現在，市街地を流れる芝原用水系の用水は光明寺用水・四ケ用水だけとなった。用水の守護神としても松岡にあった川上神社が慶応元年志比口に移された。

KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7603249