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二瀬炭鉱
【ふたせたんこう】


飯塚市と嘉穂郡穂波町にまたがってあった炭鉱。嘉穂郡の稲築(いなつき)町と嘉穂町にまたがってあった稲築炭鉱を含めてこの名称を用いた時期もあった。始まりは明治7年,松本潜が穂波郡相田村で相田炭鉱を経営したことにあるといわれる(明治鉱業社史)。同11~12年頃,福岡県令渡辺清が,官営三池炭鉱技師ポッターを招いて鞍手・嘉麻両郡の地質を調査させた折,松本潜・安川敬一郎兄弟はポッターに相田炭鉱の調査を依頼し,良質炭の存在が判明したので,同13年,相田・庄司両村にまたがる鉱区を拡張し,高雄・伊岐須の両炭鉱を起業したとされている(同前)。工部省の「鉱山借区一覧表」によると,明治11年以前に松本潜名義の坑区はなく,同12年9月4日に相田村片鉾1,020坪が許可されているので,それまでは他人名義の坑区を経営していたと思われる。また「筑豊炭坑誌」には「明治十三年中……元相田村奥野与四郎氏所有の借区一千余坪を買収し」との記述がある。同12年12月25日,相田村鬼ケ原から伊岐須村井手浦にかけての5,400坪を借区し,さらに同14年9月22日,相田村片鉾に,1,750坪の借区を得て拡張を進めたが,「その後石炭の需要増に幸いされ,十七年には,鉱山局技師山際永吾の調査に基いて,相田鉱区をさらに拡大して七十二万余坪とし,また生産費削減のため十七・八年に亘って高雄炭坑の疏水工事を竣工させた」とある(明治鉱業社史)。しかし「鉱山借区一覧表」によると,同17年11月15日に松本潜ほか1名に許可されたのは相田村片鉾の6,265坪と相田・中村にわたる2万1,541坪であり,翌18年10月24日に幸袋・中村・相田にまたがる15万余坪を得ているので,同30年頃までに逐次拡張を重ねた結果72万5,000余坪となったものと推定される。ともあれ明治13年頃から伊藤伝六および中野徳次郎を現場担当者として,大谷村に高雄本坑,二瀬村に高雄第2坑(通称伊岐須炭鉱)を開き,同27年には高雄本坑に,同30年2月には伊岐須付近にそれぞれ新坑を起工して,同30年当時の生産規模は,1日平均85万斤(約510t)に達していた。この年官営製鉄所の八幡設置が決まり,当時の状況から原料鉱山自営の方針を採って,赤谷鉄山と二瀬炭鉱の買収を図った際,安川敬一郎が八幡誘致に奔走した経緯もあって,同32年5月,松本は130万円で高雄炭鉱を譲渡した。他方,穂波郡潤野村の清水田ほか11字に,帆足義方が明治19年2月4日付けで9万8,000余坪を借区して始めた潤野炭鉱があり,その後広岡信五郎によって83万7,000余坪の鉱区となり,同28年深さ520尺の竪坑を開坑したが,同32年12月,製鉄所に買収され,高雄炭鉱と合わせて二瀬炭山と呼ばれた。「日本炭礦誌」によると,同41年当時,292万余坪の鉱区に高雄の第1坑・第2坑・潤野竪坑を擁し,鉱夫数2,719人(うち女子648人・幼者7人)で,明治40年中の出炭3億6,413万8,158斤(約21万8,483t)であった。製鉄用原料炭・ガス発生炉用炭・ボイラー炭を供給する目的で,才ノ目五尺層・四尺層・五尺層・三尺層・カンカン層などを残柱式および長壁式の併用で採掘したが,同39年8月,新たに穂波村枝国に深さ1,300尺の中央竪坑を開削し,同43年竣工した。この竪坑は内径18尺5寸の円型煉瓦積構造で,当時としては三井田川伊田竪坑・三菱方城と並んで筑豊の三大竪坑といわれたが,完成後間もない大正2年2月6日,ガス爆発が発生し,坑内就業者113人中,死者101人・負傷者7人を出した。これとは別に,明治41年,漆生海軍予備炭田の採掘を製鉄所が引き受け,塊炭は海軍省に,粉炭は製鉄のコークス原料用とすることが内定し,同43年3月,鉱区が製鉄所二瀬出張所に移管された。実際に稲築炭鉱として開坑したのは第1次大戦ブーム期の大正8年4月で,稲築斜坑を開削,同10年から本格採炭を行った。その後二瀬炭鉱の経営は,官営から昭和9年日本製鉄へ,次いで同14年,原料部門が日鉄鉱業として独立するに及んで同社へと変わったが,戦後に至るまで,中央・潤野,高雄の1・2坑および稲築坑の5坑による原料炭主体の生産態勢を続け,同30年代まで年産40万t程度を維持していた。しかし石炭斜陽化が叫ばれる中で,次第に老朽化が進み,同32年3月,まず稲築坑を渡辺鉱業に分離移譲し,次いで同36年,潤野坑を閉山,さらに同38年1月14日,二瀬炭鉱は閉山となった。この時,鉱員533人中240人は第二会社の高雄炭鉱に引き継がれたが,同41年12月31日までに高雄中央坑・高雄2坑・高雄坑の順に閉山し,それぞれ石炭鉱業合理化事業団に閉山交付金を申請した。こうして二瀬炭鉱の約70年におよぶ歴史は閉じられた。




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「角川日本地名大辞典」
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