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迦具夜姫・赫奕姫
【かぐやひめ】


kaguyahime

【古代】『竹取物語』―他に、〈竹(たけ)取(とりの)爺(おきな)物(もの)語(がたり)、かぐや姫の物語〉などとも―のヒロインの名称。『竹取物語』は9世紀に成立し、日本の民間伝承や古伝説、さらに仏典、漢籍などから取材して創作した伝(ロマ)奇(ンチ)的(ック)な物語。神婚説話的性質が濃いといわれるが、ユーモアとウイットにも富み、ことばのうえでのレトリック、コトバ遊び、洒落(しゃれ)もみえて、日本語の醍醐味を堪能させる。『源氏物語』でも、〈物語のいできはじめのおや〉と評価。作者未詳、男性という。かぐや姫についても、一起源のみではなく、『万葉集』をはじめ、他にも伝承記録されており、内容的にも異なるかぐや姫像をみる。the Shining Princess in the Tale of an Bamboo Cutter (Taketori monogatari composed around the 9上{th} century in Japan).

【語源解説】
〈かぐや〉か〈かくや〉か問題。『古事記』(8世紀)にカグヤヒメノミコトが登場する。一般には光り輝くところからカグヤ(姫)と名づけられたという。しかし、古語としてそのような意味のカグヤは見出せない。また、『竹取物語』の中で、〈なよたけのかくや姫〉とあるので、ナヨタケはナヨナヨとした、いかにも女性らしいしなやかさを表現している語なので、カグヤ姫もそうした魅力ある女性なのであろう。漢語、〈赫(カク)奕(エキ)〉もあてているので、これは〈光り輝く〉の意であり、むかしの人びともカグヤあるいはカクヤを光り輝くと解していたのであろう。『日葡辞書』には〈カクヤク〉の語を登録、輝くの意に解している。また、『竹取物語』自体、一種類だけの伝承ではなく、タケトリも、茸(タケ)取(ト)りと松茸(ダケ)などキノコヲ山ニ取ル(翁)という伝承(茸(きのこ)による不老不死の効果という。こうした思想にもつながる)。また、9人の姫の出現など中国の神仙思想と結びつけて解すべき意ももつ。しかし、カグヤ姫にはどの伝承も周囲に〈光り満つ〉の表現がある点、『源氏物語』の男主人公、光源氏などとも通じる美少女であろう。また、『日本書紀』に雄略天皇は、〈天皇産レマシテ神光殿ニ満テリ〉と表現、さらには〈衣(そと)通(ほり)姫(ひめ)〉(允恭天皇の后)も、〈容姿絶妙比(タグヒ)無シ、其ノ艶色衣ヨリ徹リテ晃(テ)ル〉とある。『万葉集mini{2}』にも、〈天(スメ)皇(ロキ)の神の御(ミ)子(コ)の御(イデ)駕(マシ)小{ノ}手(タ)火(ヒ)〔松明〕の光ぞ〉とうたっている。〈光{ひかる@光(ひかる)}〉や〈ひかる〉がカグヤ姫を解く一つの鍵(キー)ワードであろう。カクヤ、カグヤのヤはサワヤカ、ニギヤカのヤ(ヤカもヤ、カと分けられる)と同じ。〈―{2}ヤ〉は、『万葉集mini{4}』に、〈むし衾(ぶすま)奈(ナ)胡(ゴ)也(ヤ)〔なごやか、やわらかい〕が下にふしたれど〉とか、『古事記mini{〈神代〉IG}』に、〈ムシブスマ尓(ニ)古(コ)夜(ヤ)〔柔らかい〕が下に〉とあり、ナゴヤ=ナゴヤカ、ニコヤ=ニコヤカのヤという接尾辞と考えられる。状態をあらわす点、カクヤ、カグヤのヤも光り輝く状態を示すヤと解せる。カクカクと輝くさまがカクヤでそうした姫を〈かくや姫〉とよび、のちカグヤ姫と濁った。なお、直接関係はないと思われるが、天(あめの)探(さぐ)女(め)と関連して、『古事記』に〈天之加(カ)久(ク)矢(ヤ)〉の語がみえる。天(あめ)若(わか)日(ひ)子(こ)が天神から賜った矢、ある種の呪術的意味があろう。カクヤ姫は超人間界に属する。

【用例文】
○此〔垂仁天皇〕天皇、大筒木垂根王ノ女、迦(カ)具(グ)夜(ヤ)比(ヒ)賣(メ)命ヲ娶シテ生ミマセル御子、袁(を)邪(ざ)部(べ)之(の)王(記)○昔、老翁(おきな)有リ、号(な)ヲ竹(たけ)取(とり)ノ翁(をぢ)ト曰(い)ヒキ(中略)忽羹(あつもの)ヲ煮ル九(ここ)箇(のつ)ノ女子(をとめ)ニ値(あ)ヘリキ、百ノ嬌(こび)、儔(たぐひ)無(な)ク花ノ容匹(たぐひ)無シ……非慮(おもひ)ノ外ニ偶神仙(ひじり)ニ逢ヒ迷(ま)惑(ど)ヘル心ハ禁メ敢ヘナクニ近ク狎(な)レシ罪ハ希ハクハ贖フニ歌ヲ以テセムト(万)○いまはむかし、竹とりのおきなといふもの有りけり、野山にまじりてたけをとりつゝよろづの事につかひけり……その竹の中にもとひかる竹なむひとすぢありけり〔三室戸斎部の〕あきた〔神職名〕、〔この子を〕なよ竹のかぐやひめとつけつ/ねの時〔十二時ころ〕ばかりに家のあたりひるのあかさにもすぎてひかりたり、もち月のあかさを十あはせたるばかりにて、ある〔居る〕人のけのあなさへみゆるほどなり(中略)おきなこたへて申、かぐや姫をやしなひたてまつること廿余(よ)年(ねん)に成(なり)ぬ(竹取)○ふるめきたる御厨子あけて……かぐや姫の物語の絵にかきたるをぞ時々のまさぐりものにしたまふ/かぐや姫を見つけたりけむ竹取の翁よりも珍らしき心地するに(源氏)○かの聞えし竹取(たけとり)の翁(おきな)なほ語らひ給てんや(狭衣)○古老伝テ云、此山ノ麓乗馬ノ里ニ老翁有リ、鷹ヲ愛シ、嫗ハ犬ヲ飼フ、後ニ箕ヲ作リテ業ト為ス、竹節三間ニ小女ヲ得タリ、容{しろはち}端厳トシテ光明照燿ヤクニ……終夜火光絶ヘズ、子細ヲ問フニ是レ養女ノ光明ナリト(漢文。詞林采葉抄)○昔採竹翁ト云者アリケリ、女ヲ赫(カグ){またひ)(ヤ){ひめもどき)(ヒメ)ト云(イフ)。翁ガ宅(イヘ)ノ竹林ニ鴬ノ卵、女〔子ども〕形ニカヘリテ巣ノ中ニアリ、翁養(ヤシナヒ)テ子トセリ。長(ヒトトナリ)テ好(カホヨキ)事(コト)比(タグヒ)ナシ、光アリテ傍ヲ照ス(海道記)○かくや姫 これは月宮の天人なるが、しめし〔しばし〕下界にくたりて花竹の翁にやしなはれし(藻塩草)○赫(カヽ)奕(ヤク)mini{光明}(運歩色葉集)○Cacuyacu. カクヤク すなわちカカヤク 光り輝くこと、または輝き。カゥミャウ〔光明〕カクヤクトシテ=きらめき輝きながら、または大きな光彩を発して(日葡辞書)○古より美人の聞え数もかぎらぬ其中にも(中略)赫(かぐ)奕(や)姫(ひめ)が鼻(はな)筋(すじ)、飛(ひ)燕(ゑん)が腰(こし)つき(平賀源内)○新曲赫(かぐ)映(や)姫(ひめ)(坪内逍遥)○このあたりの裏屋より赫(かく)奕(や)姫(ひめ)の生まるることその例多(樋口一葉)○かぐや姫(与謝野鉄幹)
【補説】
神仙的な像や美人(平賀源内は中国美女、西施や古代の美女、小野小町とあげる)、さらに玉の輿、シンデレラ姫的像など、伝承の間に、〈かぐや姫〉像も変化していると思われる。中、近世でのカグヤ姫受容の点を検証して、さらにカグヤ姫の真意を解明すべきであろう。なお、〈{ひめもどき)(キ)mini{ひめ}〉は字源的には、〈{ひめもどき}〉が正式であるが、俗に訛って、〈姫〉で代行、通用。また、〈{またひ}〉は一般に辞書にみえない。奕の譌(か)字(じ)か。




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「語源海」
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