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鯨・鯢
【くじら】


kuzira

【古代】海にすむ巨大な哺乳(ほにゅう)動物。外形は魚に似ているが前肢はひれ状、後肢はない。肉は食用、脂肪は食用あるいは工業用に用いる。いわゆるヒゲは細工用に用いられる。古代ではイサナ{イサナ}(勇魚)ともよんだ。[中国語]鯨魚。whale.

【語源解説】
二説あり、一説は〈口(くち)広(ひろ)〉からという。クチヒロ→クチラ→クヂラと語形変化した。古代の人の鯨に対するとらえ方からである。もう一説は鯨の体が、ク(黒)とシロ(白)と色分けされている点から、クロシロ→クシロ→クジラと命名したという(新井白石)。ただし古代では、仮(か)字(な)遣いがクヂラとみえるので、ヂとジと混同した解として後者は疑問がある(絶対にヂ(di)とジ(zi)と交替しないともいえぬが。12世紀ごろクヂラ・クジラの両形をみる)。したがって前者をとりたい。なお漢字では、オス・メスと分けて、〈鯨(ゲイ)・鯢(ゲイ)〉を用いる。日本ではヲクヂラ・メクヂラと区別する。朝鮮語hbox to1zw{hsshangul{2149)hss)(ク)hbox to1zw{hsshangul{214A)hss)(レ)と同系語か。

【用例文】
○久治良(クヂラ)さやる(記)○区{ほうあま)羅(クヂラ)さやり(紀)○鯨 一名、鯢、一名、海鰌 mini{和名、久知良(クヂラ)}(本草和名)○鯨鯢 唐韻ニ云フ大魚。雄ヲ鯨ト曰ヒ、雌ヲ鯢と曰フ。和名、久知良(クヂラ)(和名抄)○昨日こそ船出はせしか伊佐魚(イサナ)取りひぢきのなだを今日みつるかも/勇魚(イサナ)取り海辺を指して(万)○鯢mini{女久地良(メクヂラ)}(新撰字鏡)○鯨mini{クヂラ、クジラ}(名義抄)○Cujira. クジラ/Caiguei. カイゲイ、ウミノクジラ、くじら/Mecujira. メクジラ(日葡辞書)○鯨(おくじら)・鯢(めくじら)(落葉集)○鯨(クヂラ)、鯢(同)(易節用集)○鯨(クジラ)鯢(同)(類聚往来)○千味(せみ)といへる大鯨、前代の見はじめ/鯨(くぢら)恵比須(えびす)/鯨網(くぢらあみ)/鯨(くじら)突(つき)/鯨一頭とれば七(なな)郷(さと)の賑ひ(西鶴)○鯨(くじら)、{さかなきょう}mini{本字}、海鰌、勇魚(イサナ)mini{万葉集}/鬣(ヒゲ) 工匠之ヲ用ヒテ笄楴(カンザシ)及ビ尺秤(モノサシ)之類ヲ作ル(和漢)○鯨(くじら)(早節用集)○菜の花やいさな〔鯨(くじら)とも〕も寄らず海暮れぬ(蕪村)○鯨(クヂラ)イサナ、鯢(メクチラ)、鯨(クチラ)舟(フネ)、初鯨(クチラ)、鯨(クチラ)槍(ツク)(俳題正名)○海鰌(クジラ)ニモリ(諺苑)○海鰌ハクジラナリ、雄ハ鯨、雌ハ鯢、正字通〔中国の字書〕ニ{さかなきょう}は鯨ノ本字、{さかなうやまう}は俗字、鰍ハ鰌ノ俗字ト云フ(中略)食料ニハ、セビクジラmini{内ニ油少シ}、ザトウクジラmini{油多シ}ヲ用ユ(本草)○鯨の最期屁七浦が皆黄色/鯨汁ぶたよりいゝと徐福喰い(川柳)○くぢら 俚諺(ことわざ)に、一浦一鯨(くじら)を獲(え)るときは、七(なゝ)郷(さと)の賑(にぎわひ)なりと、実(げ)に漁家(りやうし)の獲(えもの)の第一なり(中略)せび鯨好んで水面に浮ぶ、背(せ)乾(かわく)mini{せひ〔背(せ)干(ひ)〕}の義なり、ざとう鯨、瞽者(めくら)の如し、ゆへに名づく。あかほう鯨赤色なるがゆへに名づく、むかで鯨五ッの鬣(たてひれ)十二の脚ありて、蜈蚣(むかで)に似たり、此鯨特(ひと)り大毒ありて、漁人(りょうし)も懼る。さかまた鯨、倒逆(さかほこ)のいひなり、尖れる鰭うしろに向ふ、よつて名づく。/付(つけ)ていふ。おきな、又大魚(おゝな)ともいふ(魚鑑)
【補説】
古代からクジラと日本人の生活は密着している。ヒゲを材料とした〈鯨差(くじらざし){くじらざし@鯨差(くじらざし)}={くじらじゃく@鯨尺(くじらじゃく)}鯨尺(くじらじゃく)〉も中世からみえる。なお、引用の『日本書紀』の区{ほうあま)羅(クヂラ)は岩波『古典文学大系』の頭註では、〈鷹〉の古名とする。葬儀用黒白の幕を鯨幕という。




東京書籍
「語源海」
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