蛞蝓・蚰蜒
【なめくじ】

namekuzi
【古代】〈なめくじり{なめくじり}〉とも。湿地を好む軟体動物、蝸牛の殻のない状に似る。体面から乳のような粘液をだし滑らかに移動する。頭上に収縮自在の二対の触角があり、雌雄同体。塩をかけるとちぢむ。[中国語]蛞蝓。slug.
【語源解説】
ナメ・クジ(リ)に分けて考える。ナメは鯰(ナマヅ)のナマとも同じで、ナメラカの意。クジはクジリ(抉)の〈リ〉が落ちた語形で、ナメクヂが歩いた跡がえぐりとられるようになるところからと思われる。ただし古くナメクヂの仮(か)字(な)遣いなので、後人の解釈が加わってナメクジリの語形がとられたか。あるいは小さいながら、形が鯨(クヂラ)に似るところのあるところからか(ナメクジラの語形もみえる)。また、カタツブリにならって、ナメクジ→ナメクジリの語形がつくられたか。なお、〈蚰蜒(ユウエン)〉は中国ではゲジゲジをさす。ただし〈蜒(エン)〉はうねうね長いさまをあらわすので、日本ではナメクジの状態から用いたか。また〈蜒(テイ)mini{テン}〉とは別字。〈蚰{むしてい)(ユウテイ)〉は誤字。
【用例文】
○蝓 mini{加太豆不利(カタツブリ)、奈女久豆(ナメクヂ)(地)}、蜒 mini{奈(ナ)女(メ)久(ク)地(ヂ)}、蛞 mini{奈女久地(ナメクヂ)}(新撰字鏡)○蚰蜒 一名、{むしつく}{ないくちつきむしぼん}、{むしとら}蝓 mini{和名、奈女久知(ナメクチ)}(和名抄)○いみじくきたなき物 蛞蝓(なめくぢ)、みみず……(枕)○蚰蜒mini{ナメクチ}(名義抄)○蚰蜒(ナメクジリ)(下学集)○Namecuji. ナメクジ この名でよばれる虫(日葡辞書)○蚰蜒(ナメクジリ)(易節用集)○ぬめる物 鰻(うなぎ)、糸巻(いとまき)、蛞蝓(なめくじり)、練貫(ねりぬき)、裸(はだか)、女房の風呂(仮名草子)○蚰蜒(ナメクシリ)(類聚往来)○蛞蝓(ナメクジリ)mini{ナメクジ}、蛇(ヘビ)、滑(ヌメリ)者、蛙(カハヅ)(類船集)○五月雨に家ふり捨てなめくじり(凡兆)○{むしとら}蝓は蚰蜒、ナメクヂといふ也。義不詳(東雅)○蛞蝓 なめくじり 常陸にて○はだかまいぼろ 越後にて○山なまこと云、山中には大小{サ}五六許のもの有と也(物類称呼)○ナメクヂノ回国スルヤウ(諺苑)○蛞蝓(ナメクヂリ)mini{ナメクヂ}(俳題正名)○なめくじを無宿と笑ふ蝸牛/なめくじりとはしつぶかひ虫の事(川柳)○蛞蝓 ナメクヂmini{和名鈔}、ナメクジリmini{京}、ナメクジラmini{同上}、ナメクドmini{作州}、ナメタレmini{雲州}、ヘリmini{越後}、ヤマナマコmini{同上}、タイロウmini{信州}、メヤメヤツブリmini{肥前}、ハダカマイボロmini{常州}(本草)
【補説】
古語、ナメクヂ、近代語、ナメクジリとみえる点、すなわち、ナメクヂがナメクジリより前の語形である点はなお再考を要する。ただし日本語はヤッパリ→ヤッパ{やっぱ}など語末のラ行音は脱落し{らぎょうおんのだつらく@ラ行音の脱落}やすいのが常法ゆえ、古名としてナメクジリの存在も否定できない。なお、方言のハダカマイボロは裸の蝸牛(マイボロ)の命名、ヤマナマコ{ヤマナマコ}は山生海鼠(ナマコ)で、ナマコからの二次的命名。

![]() | 東京書籍 「語源海」 JLogosID : 8537908 |