便乱坊奴・篦棒め
【べらぼうめ】

berab^{o}me

【江戸時代】〈べらぼう〉のみでも。〈馬鹿者、愚かなやつ〉などの意。さらに一種の罵りことば、また数や量の意外に多く重いさま。[中国語]渾蛋。nonsensical, awful.

【語源解説】
べらぼう・奴(め)の構成。ベラボウには二説あり、一説に江戸初期、〈便(べ)乱(ら)坊(ぼう){べらぼう@便(べ)乱(ら)坊(ぼう)}〉と名づけて、大坂道頓堀で見世物とした醜い男のことから一般的になったという。一説に〈箆(へら)坊(ぼう)（棒）〉で米など穀をおしつぶすそくい〔米の糊(のり)〕の箆にちなんで、ゴクツブシ→役立タヌモノ→ヘラボウ→ベラボウと命名したことにはじまるという。これにちなんでのちに見世物にも用いたか。〈坊〉はのち〈棒〉もあてる。奴(メ)は卑称を示す。またベラボウメを訛ってベランメ（イ）といって江戸語―東京語と受けつがれた。

【用例文】
○この竹をけづりて穀を押しつぶすこれぞまことのそくいベラボウ（卜養狂歌集）○形のおかしげなるを便(べ)乱(ら)坊(ぼう)と名付け、毎日銭の山をなし（西鶴）○べらぼう　其貌醜き事たとふべきものなし。顔するどく尖(とが)り眼まん丸にあかく、顎(あご)猿の如し、京師〔京都〕東武〔関東〕におよび芝居をたてゝ諸人に見せける（本朝世事談綺）○知恵なき者を議(ソシル)には馬鹿といひ、たわけと呼、あほうといひべら坊といへども／うぬが様な癡(べら)心漢(ぼうやらふ)（平賀源内）○たわけ、ばか、とうへんぼく、うんつく、うつけ、べらぼうのるい皆不通(やぼ)の異(い)名(みゃう)也（洒落本）○べら坊な夫を持って御仕合／べらぼうめ連れのもてたに腹を立（川柳）○折助〔武家屋敷の下男〕が酒に酔って千鳥足を子供がはやして、「エ、生酔いやい、べらぼうめ／べらぼうめ、そんな大年増はいや（咄本）○ざまァ見ろ、お秋のべらぼうめ／けふはべらぼうに〔非常に〕荷が勝たから重(おもた)くッてならねへ（浮世風呂）○べらぼう　世に益なきものを穀つぶしとは今もいふ事なり、箆(ヘラ)は飯を押潰(つぶ)す物故に件の如き者〔見世物〕を箆といふなり、ぼうは例の賤しむる意なり（嬉遊笑覧）○べらぼうめへ、江戸っ子だから知らねへのだは／べらんめへ、市に張形を売ァしめへし（滑稽本）○関東方言、江戸ノ俗、白(シレ)物(モノ)〔馬鹿〕ヲ罵リテ、べら坊トイフ、コノベラモ可ナリ（馬琴）○変(かは)る心も出しておくんなさいますナヨ、何べらぼうめ（梅暦）○べら坊め、それも洒落(しゃれ)だ（西洋膝）○ベラボウmini{〈俗語〉}馬鹿、あほう、怠けもの。ベラボウメ、ベラボウヤロウ（ヘボン）○箆(べら)棒(ぼう)めと云ひ捨てに別れましたが（幸田露伴）○べらぼうな話だなあ、何かい（森鴎外）○箆棒(べらぼう)め、先生だって出来ないのは当り前だ／あのべらんめえと来たら、勇(いさ)み肌(はだ)の坊っちゃんだから愛嬌がありますよ（漱石）○あとは明日(あした)の朝までかかっても可(い)いや、べらぼうめ（高村光太郎）
【補説】
上方発生で江戸で成熟した語であろう。次第に単独のベラボウは用いられず、ベラボウメ（ヤロウ）、ベラボウニ、ベランメイなどが用いられた。

東京書籍 「語源海」 JLogosID : 8538064