百足・蜈蚣
【むかで】

mukade
【古代】ムカデ綱の節足動物。体は平たく細長く、多くの環節から成り、環節ごとに一対の脚(また手)をもち、口に毒腺がある。[中国語]蜈蚣。centipede.
【語源解説】
手(脚)ごとに相向かいあっているので、向(ムカ)ヒ手(テ)→ムカデとなった。英語centipedeはフランス語、centpied(サンピエ)の借用。サン百・ピエ足と百本足、百足の意、中国人と同じ発想。
【用例文】
○蜈蚣(ムカデ)ト蜂トノ室(むろ)ニ入ル/呉公(ムカデ)(記)○蜈蚣 mini{牟加天(ムカデ)}(本草和名)○蜈蚣 一名、{むししつ}{むしなし}、一名、百足mini{和名}、mini{無加天(ムカデ)}(和名抄)○みすの外(と)にぞ夜も出で来、ふしたるにふるき所なればむかでといふもの日(ひ)ひとと日(ひ)おちかゝり……いとおそろしき(枕)○小船被打寄タリケリ……漕ラム時ニハ蜈蚣ノ手ノ様ニコソハ有ラメ世ニ珍キ物也ト云テ(今昔)○呉公、百足、{まむし}、蜈蚣mini{ムカデ}(名義抄)○百足(むかで)いはく我は百足あれども余りとも覚えず(沙石集)○文選のことばに、百足(むかで)は死にいたれどもたはふれ〔倒〕ずなど也(曽我)○むしげん(ムカデ)、百足也({あい}嚢抄)○蜈蚣(ムカデ) 百足ヲ云フ又馬むしげん(ゲン)ト云フ(下学集)○馬{むしげん)(ムカデ)mini{ゲン}、或云フ蜈{むしげん)(ゴゲン)mini{百足有リ}(伊京集)○Mucade. ムカデ むかで(日葡辞書)○蜈蚣(ムカデ)、{むしげん)(同)(易節用集)○蜈蚣 mini{牟加天(ムカデ)}、異名、天龍(テンリヨウ)(新刊多識編)○蜈蚣(ムカデ)、百足(ムカデ)、毒、蚣(ムカデ)ノ福、毘沙門/百足苔(ムカデノリ)(類船集)○百足の懼(おぢ)る薬たきたり(芭蕉)○手両ニ向ヘリ故ニムカデト名ク(大和本草)○蜈蚣(むかで)に唾、鼈に蓼、皆夫々の敵薬あり(近松)○蜈蚣mini{むかで} 和名、無加天(ムカデ)……俗相伝テ曰ク、蜈蚣ハ毘沙門天ノ使也。其ノ由ル所ヲ知ラズ、俗百足ヲ以テ蜈蚣(ムカデ)ト訓ズルハ非也/百足mini{おさむし}(和漢)○蜈蚣 ムカデ 其ノ手毎に相向ひてあるをいひしなるべし(東雅)○蜈蚣 むかで、上総にて○はがちと云「日本紀」に出(物類称呼)○蜈蚣(ムカデ)、百脚、{むしくさしつ}{むしれい}、{むしきょう}蛆(雑字類編)○百足熱足のだるいにこまり果/毘沙門で放し百足をたわけ売/百足旅立ちさぁ事だ足袋脚半(川柳)○蜈蚣 ハガチmini{日本紀}、mini{上総} ムカデmini{和名鈔} ムカゼmini{濃州}……俗ニ百足ノ字ヲ用ルハ非ナリ(本草)○ムカデ 蜈蚣 centipede.(ヘボン)
【補説】
百足は七福神{しちふくじん@しちふくじん(七福神)}の一、毘沙門天(毘沙門、別に多聞天(タモンテン)とも)の使いとされ、江戸では牛込神楽坂の善国寺、山谷の正伝寺など女芸者の参詣で賑わった。〈百足小判{むかでこばん@百足小判}〉をお守り代りに出した。〈百足の悶(もん)死(し)〉という表現がある。

![]() | 東京書籍 「語源海」 JLogosID : 8538158 |