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「起業家が果たすべき役割の中で、最も重要なことは価値観を社内全体に浸透させることだ」


【名言・格言者】
ハワード・シュルツ(スターバックスコーヒーカンパニー会長)

【解説】
 ハワード・シュルツ氏は、1953年、米国に生まれました。1975年にノーザンミシガン大学を卒業後、家庭用品販売会社などを経て、1982年、ワシントン州シアトルのコーヒー豆の小売店スターバックス・コーヒー・ティー・スパイス社(後のスターバックスコーヒーカンパニー。以下「スターバックス」)に入社しました。その後、独立してコーヒースタンド事業に乗り出し、1987年にスターバックスを買収しました。スターバックスは、エスプレッソを主体としたテイクアウトメニューの店頭販売を大々的に展開し、若者や女性を中心に大人気となりました。現在では、米国のみならず世界的なコーヒーショップチェーンとなっています。
 冒頭の言葉は、「企業において唯一の判断基準となるのは、社是社訓や企業理念といった価値観であり、これを企業内に深く根付かせることで、企業基盤が確立する」ということを表しています。
 シュルツ氏は、家庭用品販売会社に勤務していた時、得意先の一つであったスターバックスを訪れました。当時、スターバックスは4つの店舗を展開するコーヒー豆の小売店にすぎませんでした。しかし、シュルツ氏は、スターバックスで出された高品質のコーヒーに感銘を受け、同時にビジネスとしての大きな将来性を確信しました。
 その後、シュルツ氏はスターバックスに入社し、店頭でのエスプレッソ販売を開始しました。1985年、シュルツ氏はスターバックスを退社して独立しましたが、その後1987年にはスターバックスを買収し、同社の経営に携わることとなりました。
 シュルツ氏は、「誇るに足る価値観と指導理念を持った全国規模の企業を築き上げる」という目標を持ち、オーナー兼最高経営責任者としてスターバックスに戻りました。しかし、その当時、同社の経営者と社員の信頼関係は失われ、社内の士気はすっかり低下していました。そこで、シュルツ氏は、社員の信頼を勝ち取るためには、誠実な態度で社員に接し、事業計画に対する理解と情熱を分かち合う必要があると考えました。
 1990年、シュルツ氏はスターバックスの価値観と信条を見直した上で、次のようなミッション・ステートメント(社訓)を起草しました。

1.働きやすい環境を提供し、社員が互いに尊敬と威厳をもって接する。
2.事業運営上の不可欠な要素として多様性を積極的に取り入れる。
3.コーヒーの調達・焙煎・流通において、常に最高級のレベルを目指す。
4.顧客が心から満足するサービスを提供する。
5.地域社会や環境保護に積極的に貢献する。
6.将来の繁栄には利益率の向上が不可欠であることを認識する。

 このミッション・ステートメントは、まさにスターバックスの企業基盤となるものです。
 1994年、コーヒー豆の価格が急騰したことがありました。この時、大手コーヒー会社の中には、高級コーヒーに質の劣るコーヒーを混ぜ、価格を値上げするという対応をとった企業もありました。
 しかし、スターバックスにおいては、そのような方法は選択肢にすら上りませんでした。なぜなら、ミッション・ステートメントに明記されているように、スターバックスは、コーヒーの調達・焙煎・流通において、常に最高級のレベルを目指し、顧客が心から満足するサービスを提供することを使命としているからです。
 スターバックスは、顧客および経営上のパートナーに対して状況をはっきりと告げ、最小限の値上げについて納得してもらい、この危機的状況を乗り切りました。このように、ミッション・ステートメントは、スターバックスにおけるすべての意思決定の際の判断基準となっています。シュルツ氏は次のように述べています。

「全社員が共通のビジョンを抱かなければ、われわれの目標は達成できない。理想を実現するには、社員を大切にし、鼓舞し、長期的な価値の創出のために共に働く人々と利益を分かち合う組織の確立が必要なのだ」

 企業が大きく成長するためには、全社員が共通の価値観の下、共通の目的に向かって努力しなくてはなりません。そして、そのためには、経営者が明確なビジョンを描き、価値観を社内全体に浸透させる必要があるのです。シュルツ氏の言葉は、経営者と社員が一丸となり、共通の目的を達成することの重要性を表しているといえるでしょう。
【参考文献】
「スターバックス成功物語」(ハワード・シュルツ、ドリー・ジョーンズ・ヤング(著)、小幡照雄、大川修二(訳)、日経BP社、1998年4月)
「スターバックスコーヒー 豆と、人と、心と。」(ジョン・シモンズ(著)、小林愛(訳)、ソフトバンクパブリッシング、2004年12月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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