経営ヒント格言 5.ビジネスに向き合う姿勢 33 「逆流に向かって進みなさい」 【名言・格言者】サム・ウォルトン(ウォルマート創業者)【解説】 サム・ウォルトン氏は、1918年、米国に生まれました。1940年にミズーリ大学を卒業後、大手百貨店チェーンJCペニーに入社しました。1945年、大手雑貨フランチャイズチェーンに加盟して、小売業界に身を投じることとなります。その後、1962年、アーカンソー州の小さな町にウォルマート1号店をオープンしました。ウォルトン氏は、その後「エブリデイ・ロープライス(毎日が安売り)」「満足の保証」を経営理念として積極的な店舗展開を進め、ウォルマートは1991年には小売業として米国で売上高第1位になりました(1992年逝去)。 ウォルトン氏は、「成功のための10カ条」として、以下のような法則を挙げています。法則1「あなたの事業に夢中になりなさい」法則2「利益をすべての従業員と分かち合いなさい」法則3「パートナーたちの意欲を引き出しなさい」法則4「できる限りパートナーたちと情報を共有しなさい」法則5「誰かが会社のためになることをしたら、惜しみなく賞賛しなさい」法則6「成功を祝い、失敗のなかにユーモアを見つけなさい」法則7「すべての従業員の意見に耳を傾けなさい」法則8「お客の期待を超えなさい」法則9「競争相手より経費を抑えなさい」法則10「逆流に向かって進みなさい」 これらは、ウォルトン氏がウォルマートを今日の形につくり上げる上で学び、そして実践してきた法則です。いずれの法則もビジネスにおける重要な原則を表すものであり、経営者であれば、きっと深く共感できるものでしょう。 しかし、法則10だけはほかの法則と少し異なり、一見すると若干の違和感を覚えるかもしれません。そこで、以下では、法則10「逆流に向かって進みなさい」という言葉について説明します。 この言葉は、「人とは違う道を進み、旧来の考え方を捨てることが、新しいビジネスを見つけるチャンスである」ということを表しています。 この言葉の通り、ウォルトン氏は、常に逆流に向かって進み続けました。1970年代に入ると、ウォルマートは、「人口5万人以下の町でディスカウントストアを開店しても成功するはずがない」という業界のセオリーに反して、「他店が素通りするような人口5000人以下の小さな町に、適正規模のディスカウントストアをオープンする」という出店戦略を推進しました。 ウォルトン氏は、「物流センターを本拠地とし、その周辺にいくつかの店舗を出店し、飽和状態となるまで一つの商圏を寡占していく」という戦略により、人口5000人以下の町への出店も成功すると確信していました。このため、業界のセオリーに逆流し、小さな町に対して加速度的に店舗数を増やしていきました。 このようなウォルマートの地方への進出は、現地の小売業者などから反発を受け、ウォルトン氏は、後に「よきアメリカの田舎町を破壊する敵」と呼ばれました。しかし、これらのさまざまな反発に対して、ウォルトン氏は次のように述べています。「小売業の要領は、顧客に奉仕することにつきる」 ウォルマートの経営理念である「エブリデイ・ロープライス」「満足の保証」は、まさにこの言葉に集約されます。 ウォルトン氏は、社員に対して「ウォルマートのために交渉するのではなく、顧客のために交渉しろ」と述べることを常としていました。すなわち、ウォルトン氏があえて逆流に向かって進むのは、顧客に支持されるため、つまり顧客第一主義を実現させるためにほかならないのです。 ウォルトン氏の言葉には、逆流に向かって進むことの重要性に加え、その中にある揺らぐことのない強い理念が色濃く表されているといえるでしょう。【参考文献】「私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ」(サム・ウォルトン、ジョン・ヒューイ(著)、渥美俊一、桜井多恵子(監訳)、講談社、2002年11月)「ウォルマートの真実 最強のIT最大の顧客満足」(西山和宏(著)、ダイヤモンド社、2002年5月) (c)日経BP社 2010 日経BP社「経営のヒントとなる言葉50」JLogosID : 8516432