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▼わっぱ煮をアイナメ料理の最上とする


大型のアイナメは刺身がうまく、小型はから揚げや吸い物に向く。いずれの料理でも上品な味を楽しめ、独特な磯の香りもこたえられない。でもアイナメ料理を一つあげろといわれれば、ぼくは即座にわっぱ煮と答える。新潟県村上市沖に浮かぶ粟島の漁師が好んだ野外料理。以前は島の男たちは、わっぱ(曲げ物の弁当箱)にご飯と味噌だけを詰めて船を出した。昼時になると近くの磯に下り、流木を集めて火を起こし、小石と獲ったばかりの魚を焼いた。わっぱの中のご飯と味噌をふたに移し、空のわっぱに真水を注いで味噌を溶かし、焼いた魚を加えて真っ赤に焼いた石をそっと入れた。石の熱で湯が沸騰し、汁も魚もなんともいい味に仕上がり、冷えた漁師の体を内から温めるのだった。
わっぱ煮の魚はアイナメが一番とぼくに教えてくれたのは、漁を終えて杯を重ねていた粟島の老漁師だった。「以前は漁に出ると、必ずといってよいほど昼飯はわっぱ煮だった。仲間たちと焚き火を囲んで作ると、それは楽しかったな。魚はマダイでも、メバルでも、カワハギでも、なんでもいいのだが、アブラメアイナメ)のわっぱ煮に勝るものはないとわしは思うよ。だしがよく出て、磯の香りがしてなぁ」。




東京書籍
「旬のうまい魚を知る本」
JLogosID : 14070321