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オロシカ湾
【おろしかわん】


下県(しもあがた)郡豊玉町の東面(ひがしめ)にある湾。対馬の中央部に位置し,東の対馬海峡に開口したV字形の湾。湾内に大千尋藻・小千尋藻・鑓川・横浦と4つの浦に集落があることから四箇浦(しかうら)ともいうが,追込漁の盛んだったことから大漁湾としたものもある。湾口の長崎鼻より浦底まで約5km,湾口部の指渡し約1.5kmで,湾内に数個の小島や瀬があって,祭祀とかかわる伝説がある。長崎鼻には恵比須石と称する霊石があり,千尋藻には神功皇后の伝説を由緒とする海神があって,現称伊和津留幾神社と号するが,祭神は本来竜神かという(対馬国神社大帳)。オロシカの名義について「津島紀事」は筑前志摩郡に属する玄界の孤島於呂ノ島の名を引き,湾口の祭祀を海宮に見立て,志賀浦を四箇浦としているが,志賀という地名が海神と関係している例は島内に多く,筑前国志賀島をはじめ国内にも多いことから,オロシカは志賀の神すなわち海神に相違なく,オロは拝むのオロ,または大蛇(おろち)のオロと考えられる。古代における上県(かみあがた)と下県の郡界は,浅茅(あそう)湾から,和板浦を経てオロシカ浦に抜ける線が有力で,この湾が両郡の境界であったことは地形上からも無理がない。長崎鼻が長く外海に突出し,その内側にV字形に開いたこの浦は,クジラ・イルカの回游を誘い込む漁法によく適し,湾内4か村の共同で勇壮な漁が展開された。その作法と儀礼は民俗文化の一典型でもあったが,昭和30年代を最期に消滅した。現在湾内には真珠養殖や魚類の養殖が行われ,また外洋に出漁する漁船が多く,千尋藻港の変貌は著しい。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7220066