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237

陸でなし・碌でなし
【ろくでなし】


rokude nasi

【近代】役に立たない、またそのもの。[中国語]無用的人物、無頼、二流子。good-for-nothing, knave.

【語源解説】
ロク・デ・ナシの構成。ロクは漢字では〈陸〉をあて、正常の意。〈ろくに寝る〉といえば、仮眠などでなく、きちんと蒲団にはいって寝ること。これの根本は土地などが凸凹などでなく、真(まっ)平(たいら)、ゆがみのないこと、これが完璧、満足などの意を派生、〈ろくに{ろくに}/ろくな{ろくな}〉と副詞や形容動詞として用いた。ロクデナシはロクを否定した表現から、役立たずや、さらに無頼の徒を意味する。ロクナコトガナイも同様。そしてのち、ロクのみでロクデナシの意をもつようになる。おそらく、亭主の異称、〈宿(やど)六(ろく){やどろく@宿(やど)六(ろく)}〉(宿(やど)は古語のとおり自分の家)も、〈宿のろくでなし〉→宿ろく(六)と役立たずの亭主の意を〈六〉にあてただけであろう。さらに、〈碌〉をあてるようになる。漢字、〈碌(ロク)〉はこれ自体、小石のごろごろと多いさま、さらに役立たぬこと、ロクの否定のロクデナシの意で誤用。しかし碌を用いるのは後の解釈によるところで、本義は〈陸(ロク)〉。

【用例文】
○Rocuna. ロクナ 平坦なこと、ロクナミチ=平らでなだらかな道、またまっすぐなこと/ロクニ〔まっすぐに〕(日葡辞書)○家のゆがみを陸(ろく)にしましょ/午(うま)の上刻と書付しを切破りてろくに読もせず(西鶴)○かたりをいふてしばられての、にせばんしてくゝられてのと、ろくなことは一つもいはず/とゝ様はねころんだばかりで、ろくにね入はなされぬぞ/にんげんらしききがあらば、三十日のひと月をせめて三日はろくろくにねものがたりもあれかし(近松)○ろくな医者〔立派な医者〕には見せそうもないもの/ろくにねなんせい、ゆっくりやすめ(洒落本)○そのくせに碌(ろく)なものをばつれて来ず/ろくな用じやァ有るまいと飛車をなり(川柳)○私(わたくし)共(ども)も直(ろく)ではございませんが……あの{しろはち)(かほ)へべたべたと〔白粉〕なすります/親の別に哀(かなしみ)の情が見えぬ奴(やつ)だからろくではあるまいの(浮世風呂)○コレあのろくでなしどのから、……それがどこの〔ドンナ〕足(た)しになるものか/何だか気がおかれてろくに物もいはれないものだネヘ(梅暦)○ロク 直mini{〈俗語〉} even, level, straight, good, well. ロクヲミル=平かどうかみる。ロクナアイサツハシナイ、ロクナコトデハナカロゥ/ロクニイル=安らかに居る。ロクニシラヌ、ロクナヤツデハナイ、ロクデナシ=だめな奴。同義語 タイラカ(ヘボン)○どうせ碌(ろく)なものにはならないとおやぢが云った/どうせ碌な所ではあるまい/碌でもねえものに引っかゝって/渾(あだ)名(な)の付いてる女にや昔から碌(ろく)なものは居ませんからね(漱石)○嗚(あゝ)我輩の生涯なぞは実にろくろくたるものだ(島崎藤村)
【補説】
〈ろくでなし〉のほか、〈ろくなことがない{ろくなことがない}〉とか、さらに〈ろくに・ろくな〉の用例もみられる。また打消をとる場合とそうでない場合が同じように用いられている。おそらく、誤って〈碌(ロク)〉をあてるのは明治期にはいってであろう。




東京書籍
「語源海」
JLogosID : 8538253