ピカレスク小説

picaresque novel
社会の下層に位置する主人公が、一人称で自己の遍歴や冒険を物語る小説形式。挿話を重ねていく構造を持ち、時間、空間がパノラマ式に変転していくのが特徴。ピカレスクとは、「悪党」「ごろつき」の意のスペイン語ピカロ(picaro)より。最初のピカレスク小説は、作者不明の『ラサリリョ・デ・トルメスの生涯』(1554年)であるとされる。ピカレスク小説はまず、トマス・ナッシュ『不運な旅人』(1594年)によってイギリスに導入され、以後、16世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパ全土に広がり、ドイツのグリンメルスハウゼン『阿呆物語』(1669年)、フランスのアラン・ルネ・ルサージュ『ジル・ブラース物語』(1715~35年)、イギリスのダニエル・デフォー『モル・フランダーズ』(1722年)などを生んだ。19世紀以降、ピカレスク小説は、ことにアメリカ小説の構成原理として有効に働き、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』(1885年)から、J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』(1951年)まで、数々の秀作を世に送った。日本において、ピカレスク小説がおおむね大衆文学の領域にとどまっているのは、日本人がヒーローに求める条件たる倫理や知性が、そもそもピカロの持ち合わせぬものであるからなのだろう。

![]() | 朝日新聞社 「知恵蔵2009」 JLogosID : 14849644 |




