リアリズム

realism
リアリスティック(realistic)なフィクション(fiction)という用語法自体が形容矛盾ではあるが、リアリズムはすべての文学に多かれ少なかれ内在する。リアリズムは普遍的な様式概念としてではなく、より具体的に、19世紀小説の時代様式として考えた方がわかりやすい。19世紀リアリズム小説は、ロマン主義の過剰への反動として成立し、様々な階層の日常的なキャラクターを登場させ、その日々の暮らしを通じて特定の時代、特定の社会を活写した。虚飾を排した平明な文体で、出来事や人物のみならず、話の展開に直接の関係を持たない些事や日常生活の細部を事細かに描出していった。19世紀リアリズム小説の代表的作品には、フランスのギュスターヴ・フロベール『ボヴァリー夫人』(1857年)、ロシアのイワン・ツルゲーネフ『猟人日記』(1852年)などがある。19世紀リアリズムの一流派であり、その方法をより客観主義的、科学的方向に純化したものとして、自然主義がある。自然主義文学は、人間は社会的、歴史的存在であると同時に、生物学的、生理学的原理によって抗しがたく導かれるもの、との基本的立場から、想像力の働きを抑制し、観察の結果を重視した、科学主義的、実験的手法でそんな人間の生態を精密に描き出そうと試みた。自然主義文学の代表作、フランスのエミール・ゾラの『ルーゴン=マッカール叢書』(1869~93年)に見て取れるように、そこにはそれまでの文学にはない同時代性と社会批判の要素があった。明治後期の日本に導入された自然主義は、私小説という変種を生んだ。私小説は「私」を描き尽くすのではなく、むしろ半透明化された「私」を通して、そこに映じた人間関係や外界を写しとろうとした。それは必然的に、心境小説と化していく。私小説的伝統の残滓を通して、自然主義は今日に至るまで日本文学の現場に、その影をとどめている。

![]() | 朝日新聞社 「知恵蔵2009」 JLogosID : 14849649 |




