蜘蛛手
【くも-で】

[名]
((蜘蛛が足を広げた形から))[1]道や川があらゆる方向に分岐していること。
[例]「水ゆく河のくもでなれば、橋を八(や)つわたせるによりてなむ、八橋(やつはし)といひける」〈伊勢・九〉
[訳]「水が流れる川が蜘蛛が足を広げたようにあらゆる方向に分岐しているので、橋を八つ架け渡してあることによって、(そこを)八橋というのであった」
[2](戦場で)四方八方に駆けめぐること。また、刀を自由自在に振り回すこと。
[例]「たてさま、よこさま、くもで、十文字にかけわり、かけまはり」〈平家・九・二度之懸〉
[訳]「縦の方、横の方、四方八方、十文字に馬を駆け入れて敵陣を破り、駆けめぐり」
[3]四方八方に綱や縄を張りめぐらすこと。十文字に材木を打ちつけること。
[例]「ある障子の上に、くもで結うたる所あり」〈平家・二・小教訓〉
[訳]「ある襖(ふすま)の上に、十文字に材木を打ちつけて作ってある部分がある」
[4]〔「くもでに」の形で、副詞的に用いて〕心があれこれと乱れて。
[例]「◎うち渡し長き心は八橋(やつはし)のくもでに思ふことは絶えせじ」〈後撰・恋一・五七〇〉
[訳]「◎長い間ずっとあなたを思っている私の気の長い心は、八橋のように心があれこれと乱れて思うことをやめることはないだろう」
<参考>[4]の用例の「八橋のくもでに思ふ」は、[1]の用例としてあげた『伊勢物語』第九段の一節による。

![]() | 東京書籍 「全訳古語辞典」 JLogosID : 5078524 |