きこ・ゆ
【きこ・ゆ】

<一>[自][ヤ下二]<二>[他][ヤ下二]<三><補動>[ヤ下二]え/え/ゆ/ゆる/ゆれ/えよ
[自]《音声》聞こえる。→<一>[1]
《世評》評判になる。世に知られる。→<一>[2]
《理解》理解できる。わけが分かる。→<一>[3]
[他]《言う》申し上げる。→<二>[1]
《手紙》差し上げる。申し上げる。→<二>[2]
《願望》お願い申し上げる。→<二>[3]
《呼称》…と申し上げる。→<二>[4]
<補動>《謙譲》お…申し上げる。お…する。→<三>
▲動詞「聞く」の未然形に、上代の受身・可能・自発の助動詞「ゆ」の付いた「聞かゆ」から一語に変化した語。音や声が自然に人の耳に入る意から、世に知られる、また耳に入って分かることから、理解できる意になる。さらに高貴な人の耳に自然に入るように言うことから、「言ふ」の謙譲語に用いられるようになった。
<一>
[1]音や声が自然に耳に入る。聞こえる。
[例]「◎谷川の流れは雨ときこゆれどほかよりけなる有明の月」〈更級〉
[訳]「◎谷川の流れは雨のように聞こえるが、外は雨どころか、ほかのどこよりいちだんと冴(さ)えわたった有り明けの月が照らしていることだ」
[2]評判になる。世に知られる。
[例]「木曾殿の御内(みうち)に四天王ときこゆる今井、樋口、楯、根井(ねのゐ)に組んで死ぬるか」〈平家・九・生ずきの沙汰〉
[訳]「木曾殿(=木曾義仲(よしなか))のご家来衆の中で四天王と評判になる今井、樋口、楯、根井と取り組んで死ぬか」
[3]理解できる。わけが分かる。
[例]「かつあらはるるをも顧みず、口にまかせて言ひ散らすは、やがて浮きたることときこゆ」〈徒然・七三〉
[訳]「話すそばからばれるのも考えずに、出まかせにしゃべりちらすうそは、すぐに根拠のないことだと分かる」
<二>
[1](「言ふ」の謙譲語)申し上げる。
[例]「いで御消息(せうそこ)きこえん」〈源氏・若紫〉
[訳]「さあ(光源氏に)ごあいさつを申し上げよう」
[2](手紙などを)差し上げる。(便りで)申し上げる。
[例]「やむごとなき所々に、御文などきこえ給ふ人も」〈枕草子・節は五月にしくはなし〉
[訳]「高貴な方々のもとに、お手紙など差し上げなさる人も」
[3](「願ふ」の謙譲語)お願い申し上げる。
[例]「権中納言は、思ふ心ありてきこえ給ひけるに」〈源氏・絵合〉
[訳]「(弘徽殿(こきでん)の女御の父の)権中納言は、(ゆくゆくは娘を中宮にしたいと)心に期してお願い申し上げなさったのに」
[4]〔「…と聞こゆ」の形で〕(人名や官職などを)…と申し上げる。…とお呼びする。
[例]「藤壺並び給ひて、御おぼえもとりどりなれば、輝く日の宮ときこゆ」〈源氏・桐壺〉
[訳]「藤壺(ふじつぼ)の宮は(光源氏と)お並びになり、(帝(みかど)の)ご寵愛(ちょうあい)も優劣がないので、(世の人は)輝く日の宮と申し上げる」
[例]「宣耀殿(せんえうでん)の女御ときこえけるは、小一条の左の大臣殿(おほいどの)の御むすめにおはしける」〈枕草子・清涼殿の丑寅のすみの〉
[訳]「宣耀殿の女御とお呼びした方は、小一条の左大臣のお娘でいらっしゃった」
<三>〔動詞の連用形の下に付いて〕(謙譲)お…申し上げる。お…する。
[例]「父大臣の教へきこえ給ひけることは」〈枕草子・清涼殿の丑寅のすみの〉
[訳]「父の大臣が(娘に)お教え申し上げなさったことには」
[例]「『富士の山、なにがしの嶽(たけ)』など語りきこゆるもあり」〈源氏・若紫〉
[訳]「『富士の山、何とかという山』などと(光源氏に)お話し申し上げる人もいる」
<参考>(1)謙譲語としての「聞こゆ」は平安時代に盛んに用いられた。同じく謙譲の「申す」が男性的で古風な面があり、かたさを感じさせる表現であるのに対し、「聞こゆ」は柔らかい感じがあるので、女性の文章に多く用いられた。(2)補助動詞の「聞こゆ」は、「思ふ」「恨む」など精神作用を表す動詞に付く傾向がある。類義語「奉る」は、「見る」「聞く」など具体的動作を表す動詞に付く傾向が認められる。(3)連用形「聞こえ」は他の動詞と複合して、「聞こえ合はす」「聞こえ出だす」などのように用いられる。

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