に
【に】

<接助>
《順接の確定条件》…ので。…から。→[1]
《逆接の確定条件》
…が。…のに。…けれども。→[2]
《単純接続》…と。…ところ。→[3]
《恒時条件》…と。…ときはいつも。→[4]
《逆接を含む添加》…のに。…うえに。→[5]((格助詞「に」から派生した語))〔活用語の連体形に付く〕[1](順接の確定条件。原因・理由)…ので。…から。
[例]「渡し守、『はや舟に乗れ。日も暮れぬ』と言ふに、乗りて渡らんとするに」〈伊勢・九〉
[訳]「渡し守が、『早く舟に乗れ。日も暮れてしまう』と言うので、乗って(川を)渡ろうとすると」
[2](逆接の確定条件)…が。…のに。…けれども。
[例]「暗ければ頼義(よりよし)が有無も知らぬに、頼信(よりのぶ)、『射よ、彼や』と言ひける言もいまだはてぬに、弓の音すなり」〈今昔・二五・一二〉
[訳]「暗いので頼義がいるかいないかも分からないのに、頼信が、『射よ、あそこだ』と言った言葉がまだ終わらないうちに、弓の音がした」
[例]「年ごろ仲らひよからずして過ぎつるに、『今は限りになりたる』と聞きて、とぶらひにおはするにこそは」〈大鏡・兼通〉
[訳]「長年の間、仲が悪いまま過ごしてきたが、『(私の)寿命が尽きるときになった』と聞いて、見舞いにおいでになるにちがいない」
[3](単純接続)…と。…ところ。
[例]「忠明(ただあきら)も太刀を抜きて、御堂ざまにのぼるに、御堂の東のつまにもあまた立ちて」〈宇治拾遺・七・四〉
[訳]「忠明も太刀を抜いて、お堂の方へのぼると、お堂の東の端にも大勢立っていて」
[例]「『花見にまかれりけるに、早く散り過ぎにければ』とも」〈徒然・一三七〉
[訳]「『花見に出かけたところ、すでに散っていたので』とも」
[4](恒時条件)…と。…ときはいつも。
[例]「つれづれなるひるま、よひゐなどに、姉、継母(ままはは)などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど」〈更級〉
[訳]「暇な日中や、宵(よい)の団らんのときなど、姉や、継母といった人たちが、その物語や、あの物語や、光源氏のありさまなどを、ところどころ語るのを聞くと、いっそうその先を知りたくなるが」
[5](逆接の意を含みつつ添加の意を表して)…のに。…うえに。
[例]「宇津の山に至りて、わが入らむとする道はいと暗う細きに、つたかへでは茂り」〈伊勢・九〉
[訳]「宇津の山に到着して、これから自分たちが入っていこうとする道は、とても暗くて細いうえに、蔦(つた)や、楓(かえで)が茂って」
<参考>「に」には次のようにさまざまなものがあり、それらの識別のためには、それぞれの接続や文脈から判断する必要がある。(1)体言、または連体形に接続するとき。
<ア>断定の意味を含み、多く下に「あり」「はべり」が付く場合。→断定の助動詞「なり」の連用形<イ>連体形に接続して、その連体形の下に体言が補える場合。→格助詞<ウ>連体形に接続して、その連体形の下に体言が補えない場合。→接続助詞(2)連用形に接続するとき。→完了の助動詞「ぬ」の連用形(3)その他→形容動詞の活用語尾、副詞の一部など

![]() | 東京書籍 「全訳古語辞典」 JLogosID : 5103231 |