諏訪湖
【すわこ】
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県のほぼ中央,諏訪盆地内にある湖。諏訪市・諏訪郡下諏訪町・岡谷市にまたがる。湖面標高759m,面積13.3km(^2),周囲16.2km,最大水深6.3m,平均水深4.6m,貯水量6,134万9,000m(^3)で,面積が大きい割合に水深が浅い。512km(^2)の流域から26の河川が流入するが,流出河川は天竜川のみで,これが諏訪湖氾濫の原因となっている。諏訪盆地は,糸魚川静岡構造線上の断層盆地で,盆地内の沈降地域に滞水して諏訪湖ができた。湖底の堆積層の厚さは400m以上という。諏訪湖は周辺山地からの堆積物の流入や,天竜川河床の浸食による低下によって次第に面積と深さを減じ,老年期に達している。「古事記」に,建御名方命が父親の大国主命の恭順に応ぜず,追われて「科野国之州羽海」まで落ち延びたとあり,諸文献に「州輪之海」「須波海」「諏訪の湖」「鵝湖(がこ)」などの名称で記載が見られる。19世紀末に,中栄養湖から富栄養湖へと移行したとみられるが,その後,盆地内の産業の発達と人口集積が急速に進み,過富栄養湖といわれる状態になった。富栄養化の指標である透明度は,高度経済成長期に入る昭和35年頃から急減。同45年前後から,夏季にプランクトンの一種のアオコ(学名ミクロキステス)が大発生し,湖面全域が緑色のペンキ状になり,透明度が0~数cmとなった。また,精密機械工場などの排水による重金属汚染も問題化した。昭和40年に諏訪湖浄化対策研究委員会が発足し,その後湖底のヘドロの浚渫や下水道の建設が進められている。同47年着工の諏訪湖流域下水道事業は,盆地内の汚染水を集めて浄化し,天竜川に放流するもので,同54年に一部供用が始まって以来,湖の汚染は減少の方向にある。毎年12月末頃から結氷しはじめ,平均47日間ほど全面結氷をみる。全面結氷後に,-10℃以下の寒さが続くと,一夜,大音響をたてて氷が割れ,数条の氷堤を生ずる。これを御神渡(おみわたり)といい,諏訪大社上社(諏訪市)の男神(建御名方命)が,対岸の下社(下諏訪町)の女神(八坂刀売命)のもとに通う道筋といわれる。御神渡発生の平年日は1月26日で,古くからその方向やでき方から,豊凶や天下の吉凶が占われた。「新葉集」の中務卿宗良親王「諏訪の海や氷をふみて渡る世も神しまもらば危からめや」などとうたわれた。諏訪神社は御渡注進状によって,御神渡の状況を幕府に報告したが,その記録が嘉吉3年から明治4年まで(天和2年を欠く)残されており,古気候研究の資料となっている。諏訪湖では,無風,晴天で,朝方気温が急降下し,湖面に結露ができる時,しばしば水平虹が現れ,「美しき御光」と呼ばれてきた。また,上層の風が弱い日には,弱い湖風が発生する。湖底から温泉が湧出する場所を釜穴と呼び,そこだけは結氷をみない。湖中の泉源の一部は温泉植物園・市営プール・間欠泉などに使用されている。諏訪湖はしばしば氾濫を起こし,湖岸の住民を苦しめてきた。江戸期に天竜川への出口に排水路を開き,天竜川河道の拡張をしたが効果は十分でなく,昭和11年の釜口水門完成後,ようやく洪水被害が減少した。この間,明治初年以来,天竜川河畔に,旧来の灌漑用水車に加えて製糸動力用水車が設けられて排水が悪くなると,湖岸住民との間にしばしば紛争が生じた。古くから漁業が盛んで,中世末には網渡(あど)銭・船別銭など課税の対象にされた。江戸期には,明海(あきうみ)(結氷しない状態)の時は,小和田(こわた)・小坂(おさか)・花岡の3か村(三浜(さんはま))に全漁法を許し,ほかの沿岸村(散浜(ちりはま))には,沖の投網のみを認めた。冬の氷引(氷面下での引き網)では,三浜のほか有賀(あるが)・岡谷にも漁業権を与えた。寛永19年高島藩は農地と同様に検地を行って石盛をし,下田扱いとして高島・花岡・有賀・小坂の4か村に,漁業年貢を米にして納めさせた。そのほかの村々は散浜と呼ばれ,沖での投網だけが許された。魚貝類は,天正18年琵琶湖の源五郎鮒,寛政7年甲州河口湖の小海老,天保10・12年甲州荊沢川の蜆が放流された。近年の漁獲量は年300~450t(網いけすのコイを除く)でワカサギが約70%を占め,コイ・フナがこれに次ぐ。ワカサギは,大正4年に霞ケ浦(茨城県)から移入され,昭和6年から人工採卵をして,稚魚を放流している。約40億粒のワカサギ卵のうち半数は各地に出荷され,わが国最大の供給地。昭和39年から網いけすの養鯉が始まり,採捕漁業を超える生産量をあげている。付近に温泉地や高原の観光地を控え,四季を通じて訪れる人々が多く,夏のボート・ヨット・観光船,冬のスケートやワカサギの穴釣りなどのレジャーが盛ん。毎年8月15日に湖上祭が行われる。
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![]() | KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7101502 |