小瀬川
【おぜがわ】

広島県佐伯町に発し,南流して玖珂(くが)郡美和町・岩国市・同郡和木町と広島県の境を流れ,広島湾に注ぐ。1級河川。流長58.5km,流域面積342.0km(^2)。上流から中流の小瀬川貯水池北端までの24.5kmは広島県内を流れる。玖島川(広島県)・瀬田川・谷川・長谷川(山口県)などの支流がある。山口県側の主な支流は13。小瀬川本流右岸の山口県側上流端は美和町北中山字二代木で,これより下流の県境部山口県側の流長34.0km,流域面積72.0km(^2)(全流域面積の21%)。小瀬川の名称は,旧山陽道芸防国境周防(すおう)側の渡場小瀬にちなむ。広島県では木野(この)川といい,安芸側の渡場木野による。小瀬川はかつて美和町弥栄(やさか)から西へ流れ,同町渋前(しぶくま)を通り,生見(いきみ)川筋を経て錦川へ流れていたが,弥栄付近で河川争奪が起こり,現在の流路をとるようになったと考えられている。最上流部の広島県佐伯町飯ノ山に飯の山ダム・飯の山貯水池がある。その下流には,スギやヒノキに覆われた羅漢渓谷があり,中流には小瀬川ダム・小瀬川貯水池がある。昭和20年の枕崎台風,同25年のキジア台風,同26年のルース台風による被害は特に大きかった。美和町釜ケ原の対岸広島県大竹市栗谷町沖ノ窪で玖島川が合流する。合流点付近の玖島川河床には,蛇喰磐と呼ばれる甌穴群をもつ花崗岩盤が広がり,広島県の天然記念物に指定されている。また,玖島川の広島県大野町川平に,中国電力の渡ノ瀬ダムがある。魚切から3.5km下流の弥栄堺橋までの峡谷を弥栄峡という。弥栄堺橋付近で,美和町内を流れる長谷川が合流する。長谷川とその小支流佐坂川・岸根川流域は,岸根栗の産地として知られる。弥栄より下流は,粘板岩や砂岩の互層,縞状チャートを挟在する古生層などからなる峡谷を蛇行しながら流れる。現在,岩国市小瀬・広島県大竹市八丁に建設省が弥栄ダムの建設を進めており,ダムが完成すると弥栄峡の大部分と支流長谷川中流までが水没する。小瀬の渡場跡には,昭和44年建立の吉田松陰の記念碑があり,安政の大獄で江戸へ護送される途中の松陰が,安政6年5月28日国境小瀬川にさしかかって詠んだ「夢路にもかへらぬ関を打ち越えて今をかぎりと渡る小瀬川」という歌が刻まれている。この渡場には,大正6年小瀬村(現岩国市小瀬)と木野村(大竹市木野)の有志組合により初めて木橋が架設された。周防・安芸両国にまたがることから両国橋と命名され,当初有料橋であったため地元では「賃とり橋」と呼んだ。また河口部には栄橋が架かり,国道2号が通る。小瀬川流域一帯での楮生産は,河口の和木や大竹に和紙生産を発展させた。岩国・広島両藩とも,重要な専売産業としてこれを振興した。明治期になっても広島県は楮の生産を奨励した。明治5年,和紙の専売制が解かれ生産販売が自由になるとともに,生産技術の改良も行われ,手漉和紙の生産は飛躍的に伸びたが,その後機械製紙におされて斜陽の道をたどった。小瀬川河口には三角州が発達し,江戸期にはこの川筋をめぐり,干潟の所有を争う防芸国境論争が繰り返された。小瀬川河口部の防芸国境境界紛争に関する史料としては,国境相論地図類(16種54図)および周防脇村安芸大竹村御境論記録(寛政10年~享和2年)が県文書館蔵毛利家文庫に残されている。防芸境地方海上図は前者の1枚で,享和元年以前の小瀬川河口部の地理的状況がよく描かれている。この図によると河口部は今川筋・古川筋などに分流し,大小8つの三角州と干潟になっていたことがわかる。大竹村に接する三角州は青木開作として開発が進められ,今川筋と古川筋の間の三角州には,和木村の与惣野地があった。周防側の瀬田村(現和木町),関ケ浜村(同町),和木村(同町)の3か村は,対岸の安芸側大竹村と相互に山野や磯の利用に関して入会関係にあったが,慶長5年以降小瀬川が藩境河川となってから紛争が生じ,元和5年関ケ浜村庄屋が村内山野への大竹村の者の立入を拒否したことをきっかけに,これに対抗して大竹村が国境河川を越えて磯の所有権を主張した。さらに川尻の開作地や干潟の領有問題に発展し,享和元年の防芸国界確定まで約200年間絶えず紛争が繰り返されてきた。防芸御境目論地之図(寛政10年~享和2年ごろ,県文書館蔵)は,国境確定のため両岸に石土手を築く位置を示した図で,川幅120間の新河道を造ることによって,大竹村の宝永土手と青木開作の一部は川中となり,和木村の与惣野地もその南北端を一部残して大部分が川中となり,姿を消すことになった。現在の和木町や大竹市の市街地および工業地域は,いずれも三角州や江戸期の開作地,その後の埋立地上に立地する。河口右岸には,昭和15年陸軍燃料廠が建設され,戦後その跡地に興亜石油麻里府製油所・三井石油化学工業が立地した。河口左岸大竹側には,三井石油化学工業岩国・大竹工場の一部,日本紙業大竹工場,大竹紙業,三菱レーヨン大竹工場などが立地する。これら各工場の使用する大量の工業用水は小瀬川や錦川に依存している。

![]() | KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7192266 |