満月寺
【まんげつじ】

臼杵(うすき)市大字深田に所在した寺院。山号は紫雲山。開基は真野長者(長者小五郎)といわれる(豊鐘善鳴録・豊後国志)が,俗説にすぎない。また当寺を独立寺院とする説(真野長者実記/真野長者由来記),あるいはそうではなく祇陀・療病・施薬・安養・快楽の五院の総称とする説(豊鐘善鳴録/豊後国志)とがあるが,典拠がいずれも江戸期に編纂された野史類で信頼できない。天正6年3月25日付大友義統書状案に,「以満月寺申候」と見えるのが文書上の初見(三田井文書)。また年未詳の12月20日付満月寺増舜書状には「深田より,満月寺増舜,福嶋御塩太夫殿御返報」と見える(清原文書/県史料25)。当寺は臼杵磨崖石仏群の彫造とその信仰に関連をもつ寺院であると推定され,発掘調査の結果,鎌倉初期および室町期の蓮華文や巴文の瓦を共伴するかなり大規模な寺院跡および工房跡等の存在が確認されている(臼杵石仏群地域遺跡Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)。このことから瓦葺建築物については,鎌倉初期創建,室町期再建が推定されるが,それがただちに満月寺あるいはその付属施設であるかどうかについては断定できない。なお,当寺は平安期に大神(おおが)系臼杵氏が「宇佐宮領舟生津留畠」(宇佐大鏡)において創建とする説(八幡信仰史の研究)もあるが,「舟生津留畠」を「丹生津留畠」と読みかえる点,および当地の自然環境などから勘案してこの説には疑問が多い。江戸期にはすでに廃寺となっていた(豊後国志)。なお現在同地には満月寺の名前を継承した日蓮宗紫雲山満月寺がある。

![]() | KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7233456 |