落平
【うてぃんだ】

那覇(なは)市南部,山下町にある湧泉。県道7号沿いに位置する。「中山伝信録」「琉球国志略」には楽平泉と見える。琉球石灰岩とクチャの接合点から湧出する泉であるが,現在水量は極めて少ない。しかし,かつては二条の飛泉が懸崖から漫湖に落下し,水量も豊富で,そのため落平と名付けられた。湧水の下には石を積んで樋を造り,その下で水を受けた。那覇の東町・西町および久米村の一部は水質が悪かったため,水道敷設以前は水売りがこの湧水を船で町へ運び,人々はもっぱらこの水を飲料に当てていた。那覇に寄港する船舶もこの水を用いた。「琉球国志略」には「泉ありて,岩底より噴流す。諸村の茗飲に供す」と記している。落平ははじめ1か所であったが,次第に崩れて水勢も衰えた。嘉慶12年(1807)泉崎村の長廻筑登之など36人が従来の泉の東方約60間の場所に湧泉を発見し,1か月半後には新泉を築き,かつ旧泉を修したという(球陽尚灝王4年条)。新泉は旧泉とともに従来に増して人々の生活を潤した。昭和35年頃まで水量豊富であったが,後背地が住宅地として開発されたため湧水も微少となり,また上水道も普及したため,現在ではほとんど利用価値を失ってしまった。

![]() | KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7239947 |