国頭山地
【くにがみさんち】

沖縄本島北部にある山地。国頭脊梁山地(山脈)とも呼ばれる。広義には国頭地方,いわゆる山原(やんばる)にある山地を指すが,地形学上は本部(もとぶ)半島の山地を除き,北北東から南南西の島軸に連なる山地に限定することが多い。北端の辺戸(へど)岳(248.3m)から西銘岳(420.1m)・照首山(395.2m)・与那覇(よなは)岳(498.0m,沖縄本島最高峰で県下第2位)・伊湯岳(446.2m)・玉辻(たまちじ)山(288.9m)と続く。これらの国頭村・東村・大宜味(おおぎみ)村にわたる山々は,1つの大きな山地塊をなしており,塩屋湾から平良(たいら)湾の狭い地峡部によって国頭山地南西部の山々と分断されている。地峡の南西には津波(つは)山(235.7m)・宇橋山(283.6m)・多野岳(385.2m)・名護岳(345.2m)・久志岳(335.1m)・辺野古岳(330.0m)・石岳(236.0m)・古知屋岳(248.2m)・ガラマン岳(253.8m)・恩納(おんな)岳(362.8m)・石川岳(204.2m)と続き,読谷山(ゆんたんざ)岳(210.0m)に終わる。これらの主峰はそれぞれが孤立峰状となり,山地と次の山地の間は大湿帯や喜瀬武原(きせんばる)などといった広い谷や段丘で占められている。それゆえに南西部の山塊は北部の山塊とは地形的に異なる性格をもっている。特に南西部の孤立峰状の山地群は,島軸に直交する方向の断層に分断されて形成されたものと推定されるところに特色がある。国頭山地でも塩屋湾と平良湾とを境にして,北半と南半とでは地形・地質構造に大きな差異があり,両者の海岸線の形状にもそれが現われている。これらの山地の大半は中生代名護層の千枚岩類と嘉陽層の砂岩類からなり,一部に古生代~中生代の石灰岩類が辺戸岳や国頭村の半地,大宜味村のネクマチヂ岳(360.7m)一帯に露出する。なお山地の周辺には丘陵や台地が広く取り巻き,ほぼ標高200m以上の斜面と尾根がこの国頭山地を構成する。山地部は河谷が少ないため,全般的に山ひだが少なく,平滑な斜面からなるという特徴をもち,台風などの豪雨時ですら崩壊はめったに起こらない。山地から供給される土砂は,大半が砂で礫はきわめて少ない。そのため土石流の発生も全くない。山地部はイタジイなどの原生林に覆われ,近年発見されたヤンバルクイナや,1属1種で県鳥のノグチゲラなど,またリュウキュウイノシシなどの野生動物の宝庫となっている。このうちノグチゲラは国特別天然記念物,ケナガネズミ・トゲネズミ・ヤンバルクイナ・カラスバト・リュウキュウヤマガメ・アカヒゲは国天然記念物,フタオチョウ・ヤンバルテナガコガネ・コノハチョウ・イボイモリは県天然記念物に指定されている。また与那覇岳周辺の地域は天然保護区域として国天然記念物に指定され,豊かな自然をよく残し,沖縄海岸国定公園の一部にもなっている。山地の土壌は黄色土が主体で,一部は赤色土化しており,一般に国頭マージと呼ばれている。林道開通に伴って林業が行われるようになり,また昭和47年の復帰後は沖縄本島の水がめとして注目され,福地・新川・安波・普久川(ふんがわ)ダムが建設された。今後,国頭村辺野喜など各地でダム建設が予定されている。これらの一連のダム建設によって,沖縄本島の慢性的な水不足は解消しつつある。ダム建設や林業などの山林開発が自然保護の大きな妨げとなっている。また,山地内には広大な面積を占める米軍基地がある。ほとんどの基地が第2次大戦時に用地を強制接収して建設したもので,北部訓練場,安波訓練場,辺野古弾薬庫,キャンプ・シュワーブ,キャンプ・ハンセン,ギンバル訓練場,金武(きん)ブルー・ビーチ訓練場,金武レッド・ビーチ訓練場などの施設がある。これらの基地は大部分が訓練を目的としたもので,山地を利用したあらゆるゲリラ訓練,ヘリコプターによる訓練や実弾演習が行われる。特にキャンプ・ハンセンにおける実弾演習は,付近住民の生活道路である県道104号を封鎖し,しかも民家に近いところで行われることで知られる。砲弾などの落下で付近住民を巻き込む事故が多発し,騒音や心理的圧迫,道路封鎖による生活上の損失は大きい。着弾地付近の山林は樹木が倒され,山肌がえぐられて赤土が露出しており,山火事も多発して山林の荒廃が激しい。その結果山林の保水力が低下して多量の土砂が流出するなどの二次的な被害もでている。このほか基地から流出するし尿,戦車道建設により流出した赤土などが河川やダム,養鰻場,沿岸海域を汚染するなど,多方面にわたって基地がもたらす被害は大きい。

![]() | KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7240483 |