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侘び・詫び
【わび】


wabi

【古代】〈わびる、わびしい〉のワビ。1)おかしたあやまちをわびる。[中国語]謝罪。apology. 2)わびしく、まずしく暮すさま。[中国語]寂寞・弧寂。lonely, miserable. 3)俳諧、茶道での美の理念を表現する用語。寂びなどの用字もある。俳聖、芭蕉の俳諧精神ワビ(侘)、サビ(寂)が典型。[中国語]閑寂。quiet.

【語源解説】
動詞、〈わぶ(わびる)〉、形容詞、〈わびし(わびしい)〉の名詞形、〈わび〉。『万葉集』に、〈君に恋(こ)ひ萎(な)え浦觸(ウラブレ)吾居(を)れば〉と落胆のさまを〈心(ウラ)ブレ〉と表現、これは心が溢れて寄りどころない意が原義、このウラブルが、wraburu(ウラブル)=wrabu(ウラブ)→wabu(ワブ)と凝縮した語形。したがって根本は不如意などの意であるが、貧しく暮す、さらに、世俗を離れ貧しさにも安んじ、閑寂を楽しむ意に広がり、一つの生活上、文芸上、芸能上の理念の表現にまで高められた。一方、貧しさなどを歎く―{2}わび歌(落胆の歌。竹取物語)―{2}意をもち、さらに過(あやま)ちなどを許してもらう詫(わ)びる、お詫びする、あやまるの意にも内容が展開。のちに理念の〈侘(わび)〉、あやまるの〈詫(わび)〉と漢字も分けて用いるようにもなる。根源は〈心の寄りどころを失う〉であり、人間の非力を認識しての創作。

【用例文】
○……数にもあらぬわれ故に思ひ和夫(ワブ)らむ〔落胆する〕妹が愛(かな)しさ/しくしく和備之(ワビシ)かくて〔恋人〕来じとや(万)○わびしらに〔いかにもさびしそうに〕ましら〔猿〕なゝきそ(古今集)○人あやしと見るらむとわび給ふ/足のうら動かずわびしければ、せむ方なくてやすみ給ふ(源氏)○つれづれわぶる人はいかなる心ならん(徒然草)○嵐のかぜはげしきをわびつゝぞすぐしける/冴る夜に誰こゝにしもふしわびて(東関紀行)○Vabi, uru, ワビ、ワブル、憐みを乞う、また悲しみにうれえる、動作をしかねる・するのに苦労する意を示す。ヒトヲタヅネワブル、マチワブル、ワビタテイ〔体〕デゴザル/Vabixij. ワビシイ 哀れでみじめ、もの悲しくさびしい/Vabizuqi. ワビズキ すこしこびた〔しゃれた、趣きのある〕道具を使ったり、質素な構えの中でするような茶の湯を愛好すること(日葡辞書)○侘事(ワビゴト)、{りっしんりょう)憬(ワビシ)(易節用集)○利休はわびの本意とて此歌を常に吟じ/わびしき親を持たる児/佗(わび)んはうき世の中にいけらしと思ふ事さへかなはざりけり(醒酔笑)○門を扣(たたけ)ば佗しげなる女の出て/愚句両吟にて御わび申度候/笠は長途の雨にほころび……侘(わび)つくしたるわび人、我さへあはれにおぼえける(芭蕉)○侘言(わびごと)/詫言(わびごと)/佗(わび)〔侘〕(西鶴)○侘言(わびごと)、貧(わびし)(早節用集)○わび事で師匠から出るなきっつら/佗ぬればはた同じ御借金/詫に来た説客母の廻し者(川柳)○ワビル 侘 マチワビル、ツミヲカミニワビル/ワビシイ 侘敷/ワビシラニ アキノムシナニワビシラニナクヤラム/ワビズマヒ 佗住(ヘボン)
【補説】
漢字、〈侘・詫〉は必ずしも厳密に区別していない。なお、佗(タ)は〈他〉の異体でも用いる。侘(タ)は本来、誇る、失望のさま。詫(タ)は侘に同じように用いるが、本来失望の意はなく、いずれも、わびる意はない、日本的用法。




東京書籍
「語源海」
JLogosID : 8538267